第19回 優れた自己調整学習者になるために:学習を振り返る

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「勉強をして,ある資格試験に臨みました。試験結果は,さんざんでした。」……そんな場面を想像してみてください。皆さんなら,悪い結果になってしまった原因はどこにあると考えるでしょうか。

  1. この試験は難しいから。
  2. ヤマが外れてしまったから。
  3. 自分には良い結果を出すだけの能力がないから。
  4. 努力が足りなかったから。

上記4つは,Weinerによって分類された出来事の原因それぞれに該当します。Weinerは,原因を,「自分の中にあるものなのか,外にあるものなのか」という「内定-外的」次元と,「その原因は変わりやすいものなのか,変わりにくいものなのか」という「安定-不安定」次元によって4つに分類しました(図1)。

 

 

安定性

統制の位置
内的 外的
安定 能力 課題の困難度
不安定 努力

図1 達成行動において認知される原因の分類(Weiner, et al., 1971より作成)

 

原因をどこに求めるかは,学習においてとても重要です。「学習は終わってしまっているのに?」と思われるかもしれません。しかし,本コラムのテーマとなっている「自己調整学習」は,学習に先立ってどう学習していくかを計画する「予見段階」,実際に学習する「遂行段階」,学習を振り返る「自己内省段階」の3つの段階を循環的に行う過程です(組織を強くするモチベーションコラム第17回参照)。つまり,学習の振り返りは次の学習の始まりへとつながっていくのです。そこで今回は,自己内省段階に注目し,学習の振り返りについて考えていきたいと思います。

Weinerの理論に戻りましょう。Weinerが原因を分類した「内的-外的」という次元は感情の喚起に影響すると言われています。例えば,試験結果が悪かったとき,課題の困難度や運といった外的な要因に原因を求めるよりも,能力や努力といった内的な要因に原因を求める方が「恥ずかしい」という感情を強く抱きますね。試験結果が良かったときにも,外的な要因より内的な要因に原因を求める方が「誇らしい」といった感情が生じるでしょう。もう一つの「安定-不安定」という次元は,期待に影響を与えます。試験の結果の良し悪しを課題の困難度や能力といった安定的な要因に求めれば,次の試験の結果も同じようなものだろうと期待されます。しかし,努力や運といった不安定な要因が原因であると考えると,次の試験の結果は異なったものになるかもしれないと期待される……そうした違いが生じるのです。

以上のことを考慮しますと,原因をどこに求めたときにその後の学習につながる,すなわち学習に対するモチベーションが上がると考えられるでしょうか。答えは「努力」(内的で不安定な要因)になります。試験結果が悪かったのは努力が足りなかったからだと考えれば,恥ずかしいという感情が生じます。しかし,努力次第で次の結果は変わってくることが期待されるわけですから,「次こそがんばろう」というモチベーションにつながります。また,試験結果が良かった場合には,努力したからだと誇らしい気持ちになりますし,かといって次の結果は保証されていないのですから,「次もがんばろう」というモチベーションがわいてくるというわけです。

「なるほど『努力』が原因だと考えるとよいのだな」と思った皆さん,では,最後に,もう一つ考えてみてください。「次,努力しよう」と思ったとき,皆さんの頭に浮かんでいる努力は具体的にはどのようなものでしょうか。「毎日少しでも学習しよう」,「朝早起きして学習時間を作ろう」,「1日に何時間学習しよう」……。もちろんどれも大切なことばかりです。ある程度の量を学習しなければ成果にはつながらないでしょう。しかし,「毎日学習したのに」,「朝も早起きして学習したのに」,「1日に何時間学習したのに」結果が悪かったとしたら,どうでしょう。よりいっそう努力するということが,もっと学習時間を増やすということだとすると,いつか実現不可能なことになってしまいます。そして,予め実現不可能とわかっていることに向けてはモチベーションも上がりません。

「努力」は量だけでなく質にも目を向けることが大切なのです。すなわち,学習時間だけでなく学習方法も振り返ってみるとよいということです。効果的な学習方法とは,学習内容の意味を理解したり,既有知識と関連づけたりすることに重点を置く「深い処理の学習方略」と呼ばれるものであることを「組織を強くするモチベーションコラム第18回」でお話ししました。自分はそうした学習方法をとっていただろうか,時間はかけていたけれどもひたすら繰り返して丸暗記するだけの学習になっていなかったかということをぜひ考えてみてください。「良い学習方法をとれていた。結果にもつながった」ということであれば「自分はできる」という誇らしい気持ちが高まり,「この調子だ!」とモチベーションが上がることは言うまでもありません。そして,結果が出なかったときにも「学習方法に問題があった」ということであれば,改善の余地があるわけですから,「次こそは!」というモチベーションにつながることでしょう。

これまで第17回・18回・今回のコラムは,目標達成に向けて計画的に学習を行うことをテーマとしてきました。そうした学習は,心理学においては「自己調整学習」と呼ばれ,予見・遂行・自己内省の3つの段階からなるとされていることを説明し,各段階の中から自己調整学習を上手く進めるための要件を一つずつ取り上げてお話してきました。学習に向かうモチベーション,学習方法,学習の振り返り方……どれか一つでも皆さんのこれからの学習の参考になれば幸いです。優れた自己調整学習者として,学習状況をコントロールし,より良い成果へとつなげていってください。

 

引用文献

Weiner, B., Frieze, I. H., Kukla, A., Reed, L., Rest, S., & Rosenbaum, R. M. (1971). Perceiving the causes of success and failure. In Jones, E. E., Kanouse, D., Kelley, H. H., Nisbett, R. E., Valins, S., & Wiener, B. (Eds.) Attribution: Perceiving the causes of behavior. New Jersey: General Learning Press.

■筆者紹介

第19回 優れた自己調整学習者になるために:学習を振り返る

小林寛子 Kobayashi hiroko

2010年3月東京大学大学院教育学研究科博士課程単位修得満期退学後(2013年博士(教育学)取得),日本学術振興会特別研究員PDを経て,2012年4月に東京未来大学モチベーション行動科学部助教として着任。2018年4月より同学部准教授。専門は教育心理学・認知心理学。共著(分担執筆)に「探究!教育心理学の世界」(新曜社),「自ら学び考える子どもを育てる教育の方法と技術」(北大路書房)、「学力と学習支援の心理学」(放送大学出版会),「授業の心理学-認知心理学からみた教育方法論-」(福村出版)など。
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