第20回 良好な対人関係を目指すコミュニケーション:なぜ人はコミュニケーションをするのか

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今回から3回のコラムでは、「良好な対人関係を目指す対人コミュニケーション」を共通テーマとして、他者と関わろうとするモチベーションの働きについて考えていきたいと思います。第1回は、対人コミュニケーションの基礎編です。

■対人コミュニケーションが目指すもの

人はなぜ他者とコミュニケーションをするのでしょうか。この質問、案外、答えるのが難しいように思います。そこで、対極にある「人は一人で生きていけるでしょうか」という質問に置き換えて考えてみましょう。

食べ物が確実に手に入り、睡眠をとれる住環境が用意され、身の安全が保障されるのならば、確かに一人でいても「生存」はできるかもしれません。しかし、人はその段階で満足しないことをA.マズローは欲求階層説で示しています(「第3回 欲求の階層」を参照)。安全欲求が満たされれば、家族や友人などの愛情を得て、何らかの集団に所属していたいという「愛情と所属の欲求」(社会的欲求)が生じます。この欲求が満たされなければ、寂しくなったり、孤独感を感じたり、それによって健康を害してしまうこともあるでしょう。そこで、人は、社会的欲求を満たすために「人と関わろうとするモチベーション」に突き動かされると考えることができます。

 

他者と会話することができれば寂しさも解消され、その人ともっと仲良くなりたいと期待が膨らみます。そのためには相手の考えや興味を知って話を合わせたり、自分の好みを伝えて相手に合わせてもらったりする必要があります。つまり、好みや興味のような心理的に意味のあるメッセージを交換しあうためにコミュニケーションをするのです。

ここで述べている「コミュニケーション」とは、心理学では対人コミュニケーションと呼ばれ、二者や少人数の間でなされる相互作用のことを指します。“communication”の語源はラテン語の“communis”であり、英語の“common(共有の)”に近い意味です。このような語源から考えると、対人コミュニケーションでは、他者と互いに情報を分かち合い、理解しあい、良好な対人関係を築くことを目指しているといえるでしょう。

 

■対人コミュニケーションの仕組み

「仲良くなりたい」という思い(メッセージ)を相手(受け手)に伝えたいとき、メッセージの送り手は、「仲良くなりたい」とか「好きだよ」と言葉で伝えたり、相手をよく見たり、笑顔を向けたりなど、さまざまな表現方法で伝えます。表現方法(経路)はチャネルといいます。チャネルには、言葉が表す発言内容、表情や視線などの身体動作のほかにも、声の高さや抑揚、間の取り方などのパラ言語、人と人との間で取られる空間や距離(プロクセミックス)があります(図1)。さらに、好意を寄せている相手とお揃い物や衣服を身に着けたり、同じような化粧を施すこと(人工物の使用)や、暖かな印象をもたらす照明や家具の配置を利用することも(物理的環境)も、対人コミュニケーション・チャネルに含んで考えることができます。

図1 対人コミュニケーション・チャネルの種類(大坊,1998より作成)

 

チャネルを通して送り手がメッセージを伝えることを記号化、チャネルを通して送り手のメッセージを受け手が読み取ることを解読といいます(図2)。このとき、発言内容チャネルで記号化・解読が行われることを「言語コミュニケーション」、言語以外のチャネルで記号化・解読が行われることを「非言語コミュニケーション」といいます。対面場面ではこの両者は同時になされるため、本来は分離することはできませんが、便宜上分けて考えます。

 

図2 対人コミュニケーションのプロセス

 

■なぜ対人コミュニケーションが成立するのか

記号化されたチャネルを通して、送り手のメッセージを受け手が適切に解読することで対人コミュニケーションが成立します。しかしながら、時には送り手の意図とは異なるメッセージに解読されてしまう「ミス・コミュニケーション」も生じてしまいます。先の例であれば、送り手が好意のつもりで向けた熱い視線を、受け手が『睨みつけられた』とか『じっと見られていて気持ちが悪い』と感じてしまう場合です。また、会話の流れに関係なく、突然「好きだよ」と言葉で伝えたとしても、受け手に『何か裏があるのでは?』と思われてしまうかもしれません。関係性が浅い段階で行えば、なおさらその行動は不可解になります。言い換えれば、自分の思うままに、一方的に記号化をするだけでは対人コミュニケーションは成立しないのです。

関係性に応じた適切な対人コミュニケーションの量、質、方法などのルールに従って記号化をし、且つ、受け手もそのルールに従って解読をし、メッセージを理解したことをチャネルを通して記号化して、再び相手の反応をそのルールに従って解読し…ということを繰り返し、良好な対人関係が構築されていきます。適切なルールに従って適切に行動できる力をソーシャル・スキルといいますが、これは対人コミュニケーションの経験を積み重ね、学習によって獲得されていくものです。良好な対人関係をもたらす適切なソーシャル・スキルの獲得のためにも、「人と関わろうとするモチベーション」が求められるのだといえるでしょう。

 

 

引用文献

大坊郁夫(1998). セレクション社会心理学14  しぐさのコミュニケーション サイエンス社

 

■筆者紹介

第20回 良好な対人関係を目指すコミュニケーション:なぜ人はコミュニケーションをするのか

磯 友輝子 isotomo yukiko

日本大学国際関係学部および名古屋大学文学部を卒業。 大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了、同大学院博士後期課程単位取得退学。 同大学院助手として務めたのち、東京未来大学こども心理学部専任講師として着任。こども心理学部准教授ののち、現在に至る。
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