第21回 良好な対人関係を目指すコミュニケーション:対人コミュニケーションの接近と回避

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前回、人は、社会的欲求を満たすために「人と関わろうとするモチベーション」に突き動かされると説明しました。もちろん、社会的欲求の強さには個人差があります。また、一緒にいたいと思う度合いは、相手との親しさや状況の影響を受けます。そこで、今回は、親しさを維持する言語・非言語コミュニケーション・チャネルの意味について考えます。

 

■心の接近・回避と対人コミュニケーション・チャネルの接近・回避

メッセージは言語・非言語コミュニケーションのチャネル(チャネルについては第20回を参照)に記号化されます。親しくなりたい、良好な関係性を築きたいと思うとき、チャネルにあらわされるメッセージは、大まかに「接近」と「回避」の2つにまとめることができます(図1)。

 

たとえば、社会的欲求が強い人や、相手と親しくなりたいとき、既に親密な関係性が形成されている相手には、好きだ、触れたい、(より)親しくなりたいと思うでしょう。これが接近のメッセージです。このような心理的意味は、好意的な発言内容という言語チャネル、笑うといった顔面表情チャネル、近づくというプロクセミックスにあらわされます。一方で、社会的欲求が低い人や親しくない相手には、非好意的な発言をしたり、視線を逸らしたり、距離を置いたりするでしょう。これらは回避のメッセージがチャネルに記号化された状態です。ただし、相手をよく見るという視線行動でも、好意を示すときもあれば、それとは相反する敵意の意味を示す場合もありますので、図1はあくまで一例です。

接近あるいは回避として用いられるチャネルのなかのどれが用いられるかには、相手とどのような関係性であるか、どのような状況に置かれているかなどに影響を受けます。次の2つの例を見てください。

 

例1)①車通りの多い道の向こう側(プロクセミックス<回避>)に仲の良いご近所さんを発見したので、大きな声で話しかけた(パラ言語<接近>)。

②車通り多い道の向こう側(プロクセミックス<回避>)にご近所さんを発見したが、あまりよく知らないので声をかけなかった(パラ言語<回避>)。

 

例2)①人がたくさん載っている窮屈な(プロクセミックス:接近)エレベータに乗り込んだ。隣り合う恋人と、いつもより堂々と頻繁に見つめあった(視線:接近)。

②人がたくさん載っている窮屈な(プロクセミックス:接近)エレベータに乗り込む。隣り合う見知らぬ人と見が合わないよう階表示を見た(視線:回避)。

 

例1は、道の向こう側の近隣の人に気づいたときの反応が書かれています。「道の向こう側」はプロクセミックスの回避の状態といえます。相手が親しい間柄である①の場合に、自分が道の向こう側に行けないようならば、言い換えると、接近により親しさや関心を伝えることができなければ、接近の役割をする別のチャネル活性化させます。この場合にはパラ言語がその役割を担っています。一方、②は面識があまりないので回避のままの状況を維持しています。

例2は、①も②も対人距離が接近の状況です。①のような恋人であれば接近した状態が心地よく、もっと接近を望めば視線チャネルを用いることもできます。しかし、②のように見知らぬ人の場合には、接近の状況から回避したいために視線を逸らすのです。

 

■対人コミュニケーション・チャネルの連動

先の例でみたように、私たちは、状況に合わせて、チャネルの接近と回避の力を調整して対人コミュニケーションを行い、対人関係を維持しています。このようなチャネル間の連動について理論化したものに親密性平衡モデル(e.g., Argyle & Dean,1965)があります。互いの親しさに合わせて接近と回避を担うチャネルが相補的に働き、親密度の均衡点を維持することを示した対人コミュニケーションのモデルです。

アガイルらは同性や異性ペアの会話実験を行い、約60センチから約3メートルの間で4段階の対人距離を設定して、アイ・コンタクトや互いに見つめる時間を測定しました。すると、どのような性別の組み合わせにおいても相手との距離が遠くなるにつれ、視線行動が増すことが示されました。すなわち、互いの親しさの水準を保つために、対人距離の変化に応じて視線行動の接近と回避の力を調整していたのです。

研究によっては親密性平衡モデルに反する結果を示したものもあります。ですが、先に挙げた例1、2のように、関係性や状況に合わせて、視線、対人距離、発話、ジェスチャーなどの様々なチャネルを連動させて、日々対人コミュニケーションをしていることは理解できるのではないでしょうか。

しかし、対人コミュニケーション・チャネルの接近と回避の力を連動させることが上手い人と、得意ではない人もいます。そのような違いはどこから生まれてくるのでしょうか。そこで次回は、対人コミュニケーションをうまくこなせる力である、ソーシャル・スキルを取り上げたいと思います。

 

 

引用文献

Argyle, M., & Dean, J. (1965). Eye contact,distance and affiliation. Sociometry, 28, 289-304.

■筆者紹介

第21回 良好な対人関係を目指すコミュニケーション:対人コミュニケーションの接近と回避

磯友輝子 iso yukiko

日本大学国際関係学部および名古屋大学文学部を卒業。 大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了、同大学院博士後期課程単位取得退学。 同大学院助手として務めたのち、東京未来大学こども心理学部専任講師として着任。こども心理学部准教授ののち、現在に至る。
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