第13回 赤ちゃんは有能か

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ヒトは有能な存在か? 好奇心とモチベーション

今回から4回にわたり、ヒトの発達とモチベーションについて考えていこうと思います。まずは赤ちゃんの有能性と好奇心についてです。何もできないと思われがちな赤ちゃんですがその能力は私たちを驚かせるものであることが示されています。ほんの一部ですが紹介してみたいと思います。

赤ちゃんの能力

私たち人間はいつから有能であるのか? いろいろな能力はいつ頃から発現するのか・・・? これらは私たち人間行動を知るうえで重要なことなのかもしれません。17~18世紀に活躍したイギリスの経験主義哲学者、J.ロックは「われわれの心は白紙で経験とともに書き込まれていく」という「タブラ・ラサ」を主張しました。心理学においても赤ちゃんは受動的で何もできない存在として捉えられていた過去があったのも事実です。

しかし、近年では赤ちゃんであっても認知能力においては私たちが考えている以上に高い能力を持っていることが示されるようになっています。T.G.R.バウアーは新生児であっても視聴覚がかなり発達をしていることを示しています。バウアーらは生まれて間もない赤ちゃんに右側からブザーの音を聞かせ、音のする右側に顔を向ければ砂糖水を与えるということを数回繰り返したのち、左側で音を聞かせると顔を左側に向けるようになったことを報告しています。これは偶然ではなく、子どもが音に反応しているだけでなく音と砂糖水の結びつきについても理解したことを意味しています。

また、L.B.コーエンは赤ちゃんの認識能力を図形の記憶実験を通して確かめ、赤ちゃんが能動的で有能であることを示しています。赤ちゃんであっても自分の持つ能力を用いて環境に働きかけ、そこからどのような反応が得られるかによってさらに新しい知識を習得していくものと考えられています。このことから赤ちゃんの働きかけに対して母親をはじめとする周囲に大人たちが、どのような反応するかがとても大切であるかが理解できと思います。バウアーはこのような知識の習得の仕方を「随行性認知(「~すれば・・・になる」といった態度)」と称しました。赤ちゃんはこのような方法で自ら自分の世界を広げていくと考えられています。

 

赤ちゃんにも好みがある・好奇心の原点

赤ちゃんにも好みがあり、外部情報を好んで取り入れようとする能力を持っています。感覚器官としての聴覚はお母さんのおなかの中にいるときからしっかりとその機能を働かせているといわれています。その証拠になるのが、赤ちゃんが好む音に関する研究です。マイアミ医科大学の研究チームは赤ちゃんに子守歌やメトロノームの音などいろいろな音を聞かせて、どれが赤ちゃんを落ち着かせるかを調べたところ一番効果があるとされたのは「心音」でした。これは赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいるときに一番よく聞いていた音であることに由来しているようです。要するに赤ちゃんもちゃんと音を聞き分けることができるという有能性を示したものと考えられています。都市伝説に近いものですが泣いている赤ちゃんにレジ袋のすり合わせた音を聞かせると泣き止むことが知られています。実はこの「ガサッガサ」という音は赤ちゃんがお母さんの胎内で聞くお母さんの心音に近いものとされているからです。

聴覚に比べて赤ちゃんの視覚は未熟なものですが(生まれて間もない新生児の場合、20~30㎝程度ところまでしか見えていないようです)、それでも好みを示して見つめるという能力を示します。よく知られている研究にR.L.ファンツの「選好注視」の実験があります。ファンツの実験ではもっとも複雑な要素持った「人の顔」を赤ちゃんは好んで注視することが見出されています。このことから赤ちゃんでも簡単な図形より複雑なもの、特に人の顔を好んで見つめることが示されました。

 

図 ファンツの選好注視実験の結果(Fantz, 1961)

 

また、子どもに現実に存在する動物と複数の動物を組み合わせた架空の動物の絵を見せると多くの子どもたちは架空の動物を注視するといわれています。知的好奇心の現われとも言えますが、より複雑なもの新しいものへの欲求がまた新たな能力を目覚めさせることになるようです。少し大きくなって子どもたちがテレビやゲームに登場してくる怪獣やモンスターに夢中になることは珍しいものに魅かれるという発達のプロセスとして当たり前のことといってよいかもしれません。さらにそれに刺激されて自ら新しい知識を求め、大人にはない自由な発想が生まれて自身の持つ有能性を伸ばしていくものと考えられます。

蛇足ですが、空想科学ドラマのテクノロジーは30年後には現実のものとなるともいわれています。実はそれを見て思いを馳せた子どもたちによって空想物とされていたものが、後の世で現実のものとなったものが結構あります。子どもの頃の夢を大人になって現実のものとしていく・・・まさに行動の原動力として知的好奇心や純粋な興味、言い換えれば行動の原動力としてのモチベーションがそこにあるといってよいでしょう。

■筆者紹介

第13回 赤ちゃんは有能か

髙橋一公 Takahashi Ikko

明星大学大学院修了。身延山大学、群馬医療福祉大学を経て2011年4月より東京未来大学教授。2018年4月より東京未来大学モチベーション行動科学部長・同大学モチベーション研究所所長。専門は生涯発達心理学。日本臨床発達心理士会全国研修会委員長(2018年5月まで)、同会埼玉支部副支部長。著書に「生涯発達心理学15講」(編著 北大路書房)、「系統看護学講座基礎 心理学」(共著 医学書院)、「臨床発達心理士わかりやすい資格案内」(共著 金子書房)、「子どものための心理学」(共著 北樹出版)など。その他著書・論文多数。
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