第15回 大人になること アイデンティティとモチベーション

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「ヒトの発達とモチベーション」の3回目は「青年期とアイデンティティの獲得」です。私たち人間が「大人になる」ということはどういうことなのでしょうか。この「大人になる」ことを今回はテーマにしてモチベーションについて考えてみようと思います。

 

大人って?

「青年期」は人間に特有なものであり、人間以外の動物には「青年期」は原則見られないと言われています。動物の場合、成体と幼体を分ける基準として生殖能力の発現がポイントになっているからです。では人間にはなぜ「青年期」が設定されているのでしょう(青年期:一般的には11,12歳頃~23,23歳頃まで)。人間の場合、身体的・性的成熟だけでなく社会の中で様々な課題を処理することができる心理社会的な力も求められます。そのため大人になるための試行錯誤が許される「青年期」が設定されていると考えられています。要するに社会の中で適応していくためのさまざまな能力やスキルを、青年期を通して修得していくことが求められているのです。

それでは「大人になる」とはどのようなことでしょう。日常会話の中で「もう少し大人になれよな」などと先輩や親世代から言われた経験を持つ方もいらっしゃると思います。なかにはこの言葉に対して反発を覚え、反抗した経験を持っている方も少なくないと思います。が、しかし今ではすっかり「大人」になっているのではないでしょうか。「ふっ、あの時は若かったからね・・・」と呟いていませんか・・・。

 

大人になること

人生を8つ段階から捉えるライフサイクル論を唱えたE.H.エリクソンは「青年期」の課題を「アイデンティティの獲得」とし、それができない状況を「アイデンティティの拡散」として表しました。この「アイデンティティ(自我同一性)」とは「自分が何者であるのかという確信」を意味しとり、自分の存在やキャリアなどの方向性などについて自ら理解していることを指しています。このアイデンティティの獲得は「乳児期」「幼児前期」「幼児後期」「学童期」までに積み上げてきた自分のあり方を再度検討することにより、外見的な自己だけではなく内面的な自己にも関心をあて、自分のあり方の発見や人生目標の検討につながることを意味しています。

例えば、小学校低学年の子どもに自己紹介を促すと、「○○に住んでいる」「□□を持っている」「男の子、女の子である」などの特徴を示すことが多いのですが、思春期になると「○○な性格」「□□が趣味」「△△が得意、苦手」など外からでは分かりづらい内面的な特徴をあげ、自己表現をするようになります。まさに自己のあり方が外見的なものよりも内面的なもの方が重要になっていることを示しています。

この「自己に目を向けること」が青年期の課題へのスタートです。さらに青年期の若者は多少の失敗に対しても一時的に責任や義務が免除されてこと(モラトリアム)で、様々なことにチャレンジすることが許されています。これにより自分の可能性や将来について吟味が可能となっていきます。このように青年期は自分に対する関心と社会からの義務や責任の一時的免除という支援のもとにアイデンティティを模索し確立していくための課題に取り組み、それを乗り越えていこうとするエネルギーが青年の行動を支えています。

 

図 エリクソン心理社会的発達段階(鑪,2002を改変)

 

「遷延」という選択肢

最近、「自分探しの旅」という名目のもとに現実社会から逃れアイデンティティの獲得を先延ばしにすることがあります。これは「自分を見つめなおすために」「自分に適した職業を探すために」といって年齢的には青年期を過ぎた若者(?)が大人になることを躊躇い定職につかず職業を転々とするケースなどが一例と考えられます。本来ならば青年期までに経験しなければならないことを回避してきた結果の現われなのかもしれません。自分が何をすべきかわからず「自分探し」という言葉に身を置くことで「自分のあるべき姿を見つけられなかったこと」を正当化しているのかもしれません。

一時的に決定を先延ばしすることで混乱を回避することにはなりますが、よほど強い精神力の持ち主でなければその後の人生の課題達成に影響を及ぼすことは明らかです。なぜなら私たちに与えられた時間は限られており、必要な時、求められる時に様々な課題にチャレンジして解決しておくことが「最期」の時を考えると不可避なことなのです。

 

大人になった

では「大人になった」とはどのような状態なのでしょう。青年期までは自分自身のあり方について確立していくことが大きな課題でしたが、成人前期以降になると自身のことだけではなく周囲とのかかわりの中で自分のあり方を見つめていくようになります。成人前期には結婚、子どもの養育など家族を考えて自分がすべきことを検討していくようになります。さらに中年期では自分の後に続く者たちへの貢献や指導が自分自身のあり方を決定づけ、そして老年期には生死を越えて自分のあり方を考えることによって幸福を感ずるようになると考えられています。青年期以降の共通した特徴は「人と関わりを持つこと」であり「他者との関わりの中で自分をとらえること」で、これが「大人」としての重要なポイントと考えられます。

その時々に新たな課題や自分のアイデンティティを脅かす出来事も新たな自分の発見につながり、青年期で見つけた「自分らしさ」に固執することなく柔軟な姿勢で、各々の発達段階に設定された課題に向き合うことが自分自身を確信していくモチベーションになっていると考えられます。

■筆者紹介

第15回 大人になること アイデンティティとモチベーション

髙橋一公 Takahashi Ikko

明星大学大学院修了。身延山大学、群馬医療福祉大学を経て2011年4月より東京未来大学教授。2018年4月より東京未来大学モチベーション行動科学部長・同大学モチベーション研究所所長。専門は生涯発達心理学。日本臨床発達心理士会全国研修会委員長(2018年5月まで)、同会埼玉支部副支部長。著書に「生涯発達心理学15講」(編著 北大路書房)、「系統看護学講座基礎 心理学」(共著 医学書院)、「臨床発達心理士わかりやすい資格案内」(共著 金子書房)、「子どものための心理学」(共著 北樹出版)など。その他著書・論文多数。
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