第16回 高齢者の学習活動:学習行動へのモチベーション

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「ヒトの発達とモチベーション」の4回目は「高齢者の学習活動」です。人生の後半を迎えると私たちは社会的活動あるいは職業活動からから引退を余儀なくされます。これは単に「仕事をやめる」ということだけではなく、経済活動あるいは人間関係の縮小をもたらすことになります。そのような中で人生後半の「充実した生活」の一要因として「学びへの参加」、要するに学習活動への参加をあげることができます。今回は「高齢者」をテーマにしてモチベーションについて考えてみようと思います。

 

高齢者と老人

私たちは何気なく「高齢者」、「老人」という言葉を使っていて、同義語として考えがちですが、その定義は異なっています。「高齢者」は社会的規範や法令に基づく呼称で「65歳以上」という年齢によって規定されています。しかし、「老人」には一定の基準というものはなく「自らが老人として自覚したとき」から老人となります。事実、65歳以上の高齢者であっても若々しく活力に溢れとても「老人」と呼んでは失礼に感じる方もいれば、65歳に満たずとも「老人」をイメージさせてしまう方がいらっしゃるのも事実です。加齢に関しては個人差が大きく、またそれまでの人生経験が影響することも知られており、暦年齢だけで「老人」を規定することは難しいことがわかります。

「老人」としての自覚を「老性自覚」といいます。一般的には70歳を超えそれを自覚する人が多くなるといわれていますが、現代社会のように長寿化が進むとさらにそれを自覚する年齢も上昇していくと考えられます。蛇足ですが家族構成によって年齢に関係なく「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼ばれることがあります。例えば、あの有名な磯○家の波平さんは設定では54歳となっていますが、タ○ちゃんからはいつも「おじいちゃん」と呼ばれていますね。

 

高齢者の学習活動への参加動機

定年退職を迎え、子育てや親としての社会的役割を終えた後、充実した生活を送るためにはどのような事柄が必要なのでしょうか。近年、残された人生を幸せに送ることを意図する「サクセスフル・エイジング」という言葉をよく耳にするようになっています。「幸せな人生とは何か」という問いに答えることは難しく、「つつがなく人生を生きる」「生きがい」などがキーワードとして示されています。

J.ローとR.カーン(1987)は「サクセスフル・エイジング」の構成要因として「病気や障害がない」「人生への積極的関与」「高い身体・認知機能を維持」をあげています。この要因を満たす行動の例として「老年期の学習活動への参加」をあげることができます。簡単にいえば、地域社会や自治体等が主催する「高齢者大学」であり「市民向け公開講座」がこれにあたります。

 

 

それでは現実問題として高齢者が学習活動に参加する動機はどこにあるのでしょうか。最終的には「サクセスフル・エイジング」を目指してということになりますが、短期的には具体的な活動目標、いわゆる行動に駆り立てるモチベーションがあるはずです。

髙橋(2018)は老人大学に通う高齢者を対象に学習活動への参加理由について調査し、その結果から学習活動への参加理由として2つの視点が見られることを示しています。ひとつめは学習内容や学習活動そのものに対する興味関心を中心とするもので、「学ぶこと」に意義を持つモチベーションといってよいと思います。2つめに学習活動に参加することで人との交流を維持・促進させようとするもので、「関わること」に意義を持つモチベーションといってよいでしょう。また、同時に学習活動に参加している高齢者に「主観的幸福感」について尋ねたところ、「学ぶこと」「関わること」のいずれにも意義を見出している高齢者の方が「幸福感」が高いことも示されています。要するに人との交流にも知識の獲得に積極的な方が「幸福感」を持っているということになります。

 

長寿の要因

日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性87.26歳(2018)とこれまでの最高を記録しています。一般的に言われている長寿の要因としては、「病気がないこと」「足腰が丈夫なこと」「酒やたばこをやらないこと」などがよくあげられます。そかし、それだけではなく「学歴」(学習歴であって学校歴ではありません)、「読書傾向」「刺激的な生活」なども挙げられています。また認知症の研究では対人交流の多い人の方が認知症の罹患率が低いなどの報告もされています。これらのことはロー、カーンの「サクセスフル・エイジング」の条件にも合致しており、学び続けることや人と会ってどこかに出向くことは長寿をもたらすことになるのかもしれません。「学ぶこと」「学び続けること」はまさに長寿へのモチベーションなのかもしれません。

 

■筆者紹介

第16回 高齢者の学習活動:学習行動へのモチベーション

髙橋一公 Takahashi Ikko

明星大学大学院修了。身延山大学、群馬医療福祉大学を経て2011年4月より東京未来大学教授。2018年4月より東京未来大学モチベーション行動科学部長・同大学モチベーション研究所所長。専門は生涯発達心理学。日本臨床発達心理士会全国研修会委員長(2018年5月まで)、同会埼玉支部副支部長。著書に「生涯発達心理学15講」(編著 北大路書房)、「系統看護学講座基礎 心理学」(共著 医学書院)、「臨床発達心理士わかりやすい資格案内」(共著 金子書房)、「子どものための心理学」(共著 北樹出版)など。その他著書・論文多数。
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