第17回 優れた自己調整学習者になるために:学習に向かうモチベーション

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「どうしよう! 今日は数学の試験だっていうのに,勉強していない!」試験開始時間を前にあわてふためく……そんな夢を見て飛び起きた経験はありませんか? 学生時代を過ぎても,企画やプレゼンに必要な事柄の学習をしたり,資格試験のために学習をしたりと,「学習」が必要とされる場面は多くあります。準備が足りなかったと後悔するのは夢の中だけにするために,目標達成に向けて計画的な学習を行うことは,私たちにとって永遠の課題の一つと言えそうです。

では,「目標達成に向けて計画的な学習を行う」ためには何が必要なのでしょう? 「学習するぞ!」というモチベーション,「この学習にはどのような方法が有効か」を考える課題分析,学習に向かう時間を作るスケジュール管理や,自己を律する力,……たくさんの要件が思い浮かびますね。学習目標を達成するためには,学習者が自らの情動,認知,行動を,体系的に方向づけながら生起させ維持することが必要なのです。こうした過程は,心理学において「自己調整学習(self-regulated learning)」と呼ばれ,どうしたらこの過程が上手く進められるのかに関するたくさんの研究が積み重ねられてきました。

中でも,自己調整学習の過程を,3つの段階の循環の過程として捉えるZimmermanらのモデルは広く知られています(図1)。このモデルでは,実際の学習に先立って,「予見段階(forethought phase)」が設定されています。自己調整学習を上手く進めるためには,この段階で,課題を分析して,目標を立て,どう学習していくかを計画することが必要です。また,学習に向けてモチベーションを高めていくことも求められます。次が,いよいよ学習を行う「遂行段階(performance phase)」です。この段階では,計画に沿って学習を進めること,そのために,自己の学習過程をモニタリングして必要に応じて修正していくことが肝要とされます。続く「自己内省段階(self-reflection phase)」は,学習を振り返る段階です。学習の結果だけでなく過程についても,当初の目標や計画と照らし合わせて評価し,成功や失敗の原因を考えることになります。こうした自己内省の結果は,次の予見段階にフィードバックされ,新たな目標の設定や学習計画につながっていきます。

図1 自己調整学習の循環的三段階モデル(Zimmerman & Schunk, 2011より作成)

 

今回から続く3回のコラムでは,予見・遂行・自己内省の各段階の中から自己調整学習を上手く進めるための要件を一つずつ取りあげて,「目標達成に向けて計画的に学習を行うためには」というテーマでお話していきたいと思います。では早速,今回は予見段階から,「学習に向かうモチベーション」について考えてみましょう。

 

「学習するぞ!」というモチベーションはどうしたらわいてくるのでしょうか? 学習が楽しい,おもしろいと思えればよいのでしょうか? 確かに,楽しいこと,おもしろいことであれば,人は取り組みたくなります。学習に向かうモチベーションのうち,「学習内容がおもしろい! もっと知りたい!」という気持ちを「内発的動機づけ(intrinsic motivation)」と言います。また,これに対する概念として「外発的動機づけ(extrinsic motivation)」があります。外発的動機づけとは,学習そのものに興味があるのではなく,何か他の欲求を満たすための手段として(例えば,お小遣いをもらうための手段として)学習を捉え,それに向かってわいている意欲を指します。どちらの動機づけでも学習は生じますが,2つの動機づけを比較した研究によって,内発的動機づけの方が外発的動機づけよりも質の高い学習を導くこと,ひいては学習成績も高めることが明らかにされています。

それでは,学習には内発的動機づけで取り組むべきであり,外発的動機づけで取り組むなど論外と断じてよいのでしょうか? 「学習するぞ!」というモチベーションはどうしたらわいてくるのか……そんな問いが発せられる状況を考えてみますと,多くの場合,学習を楽しい,おもしろいと思えていない状況であることが推察されます。内発的動機づけが大切だと言われても,自然と楽しいという気持ちがわいてくるわけではなく,困ってしまいますね。そこで注目したいのが,近年,DeciとRyanによって提唱された自己決定理論(self-determination theory)です。この理論では,外発的動機づけを内面化・統合化の程度で下位概念に分け,内発的動機づけへとつなげています(図2)。内面化・統合化とは,自己の外部にある価値や調整を自己内に取り込むことです。外発的動機づけの中でも,内面化・統合化の最も低い状態は賞罰のような外部からの圧力によって学習に動機づけられている状態であり,それが,学習の価値や必要性を理解し,学習に対して積極的に取り組む状態を経て,内発的動機づけへと至るという理論です。この理論によれば,外発的動機づけも切り離されるべきものではなく,内発的動機づけにつながっていく可能性をもつものとして捉えられます。

 

 

図2 自己決定理論における動機づけ(Deci & Ryan, 2002より作成)

 

学習における内発的動機づけの有用性と,外発的動機づけの種類およびその可能性についてご理解いただけたでしょうか? 皆さんが学習に向かうモチベーションはどれに近いですか? 外発的動機づけだなという場合でも,まずはそこから学習を始めてみましょう。次回以降,「遂行段階」や「自己内省段階」における自己調整学習の要件をお話しする中で,外発的動機づけを内発的動機づけに変化させるポイントについても考えていければと思います。

 

引用文献

Deci, E.L., & Ryan, R.M. (Eds.) (2002). Handbook of self-determination research. University of Rochester Press.

Zimmerman, B. J., & Schunk, D. H. (Eds.) (2011). Handbook of self-regulation of learning and performance. Routledge.

■筆者紹介

第17回 優れた自己調整学習者になるために:学習に向かうモチベーション

小林寛子 Kobayashi hiroko

2010年3月東京大学大学院教育学研究科博士課程単位修得満期退学後(2013年博士(教育学)取得),日本学術振興会特別研究員PDを経て,2012年4月に東京未来大学モチベーション行動科学部助教として着任。2018年4月より同学部准教授。専門は教育心理学・認知心理学。共著(分担執筆)に「探究!教育心理学の世界」(新曜社),「自ら学び考える子どもを育てる教育の方法と技術」(北大路書房)、「学力と学習支援の心理学」(放送大学出版会),「授業の心理学-認知心理学からみた教育方法論-」(福村出版)など。
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