第18回 優れた自己調整学習者になるために:効果的な学習方法

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「優れた自己調整学習者になるために」というテーマのもと,今回は「効果的な学習方法」について考えてみたいと思います。自己調整学習とは,ある学習目標を達成するために,学習者が自らの情動,認知,行動を,体系的に方向づけながら生起させ,維持することと定義されます。Zimmermanは,この学習過程を,学習に先立ってどう学習していくかを計画する「予見段階」と,実際に学習する「遂行段階」,学習を振り返る「自己内省段階」の3つの段階の循環の過程として捉えました(組織を強くするモチベーションコラム第17回参照)。この3段階のうち,今回注目するの遂行段階です。実際に学習を進めていくにあたって,どういった方法が有効なのかについて考えていきます。

学習目標を達成するにあたって,どれくらい学習するか,たとえば,テキストの何ページまで進めるとか,1日に何時間学習するといったことを意識することは多いでしょう。しかし,どういう方法で学習するかといった学習の仕方に注意を払うことは少ないのではないかと思います。一人ひとりが,学生時代から続く長い学習経験の中で,学習の仕方を自然と身に付けています。新しいことの学習場面でも「さてどうやって覚えようかな」と改めて考えてみることはなく,身に付いた方法をとるというわけです。

しかし,同じことを学習するのであっても,その学習方法は実は多様に存在します。テキストに書かれている内容を繰り返し読んで,または,重要語句をひたすら書いて覚えるという人がいます。歴史であれば,年号や出来事を丸暗記するという状況ですね。一方で,もちろんある程度の繰り返しはするけれども,一つひとつの重要語句をバラバラに覚えるのではなく,すでに知っている語句と関連づけて覚えるとか,意味を理解するという学習方法をとる人もいます。先ほどと同じく歴史を例にとれば,出来事と出来事のつながりや,各出来事の背景を考えて理解するといったことになります。前者のような単純な反復作業を中心とした学習方法は,心理学研究において「浅い処理の学習方略」と呼ばれます。後者のように,既有知識と関連づけたり,意味を理解したりすることに重点を置いた学習は「深い処理の学習方略」です。一般に,深い処理の学習方略をとる学習者の方が,浅い処理の学習方略をとる学習者よりも,高い学習成績を修めることが示されています。

そうは言っても,いちいち関連づけたり意味を考えたりしていては時間がかかるし,覚えるべき内容が増えてしまって大変だと思う人もいるかもしれません。しかし,たとえば,①班田収授法,②三世一身法,③墾田永年私財法,④荘園の成立が,この順に起こったということを丸暗記するのは難しいですし,覚えられても少し時間が経てば忘れてしまいますね。それに対し,公地公民といった古代土地制度の規制が緩やかになり,徐々に崩れていって荘園制が成立したという過程の中で,①口分田を生きている間だけ授け,死ねば国家が収めるという班田収授法,②開墾した土地の三代にわたる保有を認める三世一身法,③開墾した土地は永久に私有してよいという墾田永年私財法,④貴族や寺社が小作人を使って私有地を増やすようになり,荘園の成立……と関連づけて理解すればどうでしょう。学ぶ内容は増えていますが,むしろ覚えやすく,また時間がたっても忘れにくくなると思います。

意味が理解できないままテキストを読み,覚えるというのは実はとても大変なことです。次の文章を読んでみてください。

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その手順は,実際,とても簡単である。まず,物をいくつかのグループに分ける。もちろん,量によっては,一まとまりでも十分である。設備がない場合には,次のステップとしてどこかよそへ行かなければならない。そうでなければ準備は整ったことになる。大切なことは,一度にあまり多くやり過ぎないことである。一度に多くやり過ぎるよりは,少ない方がよい。短期的に見れば,このことはあまり重要ではないように見えるかもしれない。しかし,多くやり過ぎるとすぐに面倒なことになるのである。また,この間違いは高くつくこともあるのだ。最初,全手順は複雑に見えるかもしれない。しかし,すぐにそれは生活の一部となるだろう。近い将来,この仕事がなくなるという見通しを立てることは難しい。それは誰にもわからない。手順が完了した後,物は再びいくつかのグループに分けられる。それから,どこか適当な場所にしまわれる。いずれそれらはもう一度使用され,再びこのサイクルが繰り返されることになる。しかし,これは生活の一部なのである。(Bransford & Johnson, 1972より作成)

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何が書かれているか,わかりましたか? 平易な日本語で書かれているのに,よくわからないと感じたのではないでしょうか。苦手な教科のテキストのようです。

では,これに「洗濯」というタイトルが与えられたらどうでしょう。とたんに文章の意味がわかり,読みやすくなるでしょう。意味がわかるということは,効果的に学習を進める上でとても大切なことなのです。学習すべきテキストが難解だと感じたのであれば,とりあえず丸暗記してしまえ!というのではなく,多少時間がかかっても意味を理解することに努めるべきです。わかった瞬間に,テキストはたくさんの情報をもたらしてくれますし,それらは知識となって定着することが期待できます。

既有知識と関連づけたり,意味を理解したりすることに重点を置く深い処理の学習方略は,内発的動機づけと結びついていることが示されています(内発的動機づけについては,組織を強くするモチベーションコラム第17回参照)。これは,内発的動機づけをもっていると深い処理の学習方略を使用するという関係性も意味しますが,反対に,深い処理の学習方略をとることで内発的動機づけが高まるということも起こります。学習内容がよくわかることによって,その内容をおもしろい,もっと知りたいという気持ちも高まるということです。「やれと言われているからやるか」そんな気持ちで始める学習であっても,ぜひ,深い処理の学習方略で取り組んでみてください。学習のおもしろさに目覚めて,より学習が進むことでしょう。

 

引用・参考文献

Bransford, J. D., & Johnson, M. K. (1972). Contextual prerequisites for understanding: Some investigations of comprehension and recall. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 11, 717-726.

西林克彦 (1994). 間違いだらけの学習論―なぜ勉強が身につかないか 新曜社

 

■筆者紹介

第18回 優れた自己調整学習者になるために:効果的な学習方法

小林寛子 Kobayashi hiroko

2010年3月東京大学大学院教育学研究科博士課程単位修得満期退学後(2013年博士(教育学)取得),日本学術振興会特別研究員PDを経て,2012年4月に東京未来大学モチベーション行動科学部助教として着任。2018年4月より同学部准教授。専門は教育心理学・認知心理学。共著(分担執筆)に「探究!教育心理学の世界」(新曜社),「自ら学び考える子どもを育てる教育の方法と技術」(北大路書房)、「学力と学習支援の心理学」(放送大学出版会),「授業の心理学-認知心理学からみた教育方法論-」(福村出版)など。
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