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【2026年10月義務化】労働施策総合推進法のカスハラ対策とは? 介護事業所がすべき5つの対応

目次

労働施策総合推進法の改正でカスハラ対策が義務化される背景

2025年6月に改正法が成立し、2026年10月から施行される労働施策推進法の主な改正内容は、カスハラ防止措置の義務化です。改正の背景は、カスハラの深刻化する中で、従業員を守る責任(安全配慮義務)を明確にするために安全配慮義務の徹底というものです。今やカスハラは大きな社会問題化しているのが現状で、特に介護現場においては、人手不足は深刻で、利用者や家族からの身体的暴力、怒鳴る、脅すなど介護サービスを超えた過度な要求や支援する立場であることから、対等な関係が築きにくく、ハラスメントが潜在化しやすいといった実態があります。こういった被害が深刻化する中、社会全体として対策を講じる必要性が高まりました。2020年6月施行の改正労働施策総合法(パワハラ防止法)で、職場におけるパワーハラスメント防止対策が義務化されるものの、顧客によるハラスメント対策における対応は「努力義務」でした。2022年、厚生労働省の「カスタマーハラスメン対策企業マニュアル」が作成され、各組合の法制化の要望を経て、改正法の議論が加速します。そして、2025年6月4日、参議院本会議において「労働施策総合推進法などの一部を改正する法律」が成立します。そして、カスハラ対策は事業主における雇用管理上の「義務」とし、相談体制の整備と共に被害者への配慮、再発防止策の策定などを求める内容の改正法に至った経緯があります。

カスハラとは何か?法律上の定義

労働施策総合推進法に定められたカスハラの定義は、顧客や取引先からの暴言、暴力、不当な要求といった「社会通念上許容される範囲を超えた顧客等の言動により、労働者の就業環境が害されること」という意味合いを持ちます。具体的な行為としては、暴力・暴言・脅迫・人格否定的な発言による身体及び精神的な攻撃、土下座の強要・不必要な謝罪などの不当な要求、長時間の居座り・執拗な連絡と言った拘束的行動、セクハラによる性的な言動が該当します。

介護現場で増加するカスハラの実態

介護現場では、利用者や家族からの暴言・暴力・セクハラ・過度な要求など、介護現場特有のカスハラが増加しているのが現状です。ある調査によると、介護職における約9割が利用者から暴力行為やハラスメント受けたことがあるという調査結果があります(株式会社SOKKIN調査)またケアマネージャーの役3割が過去1年間にハラスメントを経験しているという回答もあります。(福祉新聞Web)介護現場でのカスハラは深刻化しています。「我慢は美徳ではない」「暴言・暴力は犯罪になり得る」「介護従事者の権利も守られるべき」といった認識を共有していく事が必要で、現場スタッフ及び管理者同士が「自分事」として対策に取り組む意識変革が重要です。

2026年10月施行事業主に義務付けられる5つの措置

2026年10月に施行される労働施策総合推進法の改正法では、顧客や取引先からの著しいカスハラに対しても、事業主に「雇用管理上の措置義務」が義務として課せられます。その5つの措置は以下の通りです。

1:事業主の基本方針の策定・周知

介護事業者として「カスハラを許容しない」という方針を明確にする
就業規則及び研修を通じて職員のみならず利用者家族に対しても周知する

2:相談・苦情に応じ、適切に対応するための体制整備

相談窓口を設置して、その担当者が適切に柔軟に対応できる体制の整備
専門家(弁護士)や外部の相談機関との連携体制をとる

3:被害発生時の迅速・適切な対応

相談発生時には、迅速に事実関係を調査し、被害職員への配慮や加害者へ迅速な対応をとる

4:相談者・被害者へのメンタルヘルスケア(配慮)

被害職員のメンタルヘルス不調を防ぐため、産業医や専門相談員による面談体制の整備

5:再発防止策の講じ

管理職及び従業員にどのような行為がカスハラに該当するか、その対応策についての研修実施などの教育を実践する

措置①事業主の方針の明確化と周知・啓発

カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する方針を明確にすることが義務化されます。そのため、社内報・パンフレット・研修・就業規則への掲載・ポスター掲示・契約時の説明などで、従業員及び利用者に方針を周知します。対処法の定め方やマニュアル作成のポイントとしては、何がハラスメントに該当するのかといった具体例の明記が重要です。

措置②・苦情対応の体制整備

専門の相談窓口を設置することで、匿名でも相談しやすい環境の整備が必要です。そして、相談担当者が適切に被害状況を把握できるように、対応マニュアルを整えておくことが大切です。また、外部機関への委託も含めた体制整備の選択肢や、担当者への研修を実施することも重要です。

措置③事後の迅速かつ適切な対応

カスハラ発生時に管理者が事実確認をして、録音・録画や関係者への聞き取りなどを行い記録を残します。被害者への配慮や、再発防止措置を実施し管理監督者による代理対応、警察への通報、法的手続きなど、その事案の内容に応じた手順が求められます。

措置④実行性確保のための抑止措置

特に悪質なカスハラへの対処方針の策定と、対処できる体制の整備が必要です。例えば、カスハラを許さない「毅然とした態度」や「従業員を守る」という企業姿勢を就業規則などに明記して、サイトなどに掲載し対外表明したり、警告文の発出があります。警告に従わない、または悪質な場合において、サービス提供の制限、出入り禁止、警察や弁護士への連携などの法的措置など、抑止のための具体策を実施します。

措置⑤プライバシー保護・不利益取り扱いの禁止

相談者や事実関係の調査に対する協力者への秘密を徹底して守ること、相談や調査協力の事実を理由とした解雇、配置転換、言及、雇止めといった不利益取り扱いは法律で禁止されています。相談者、被害者、相手方における個人情報及びプライバシー保護の徹底をはかることで、従業員が安心して相談できる相談窓口を設置して、従業員が安心して相談できる環境作りを行うことが必要です。

介護事業所が今すぐ始めるべきカスハラ対策の実務

2026年10月のカスハラ対策義務化にむけて、介護事業所が準備すべき具体的なアクションプランは以下の通りです。

  • 組織的な方針・体制の整備

・許容しない姿勢の表明
・相談、報告体制の設置
・責任の所在の明確化

  • マニュアルの作成と教育

・具体例を用いたマニュアル作成
・研修実施による教育

  • 具体的な現場対応の実務

・徹底した「記録」
・徹底した「複数対応」
・物理的及び心理的距離の確保

  • 外部機関と連携及びメンタルケア

・外部の専門家の活用
・被害従業員のケア

  • 運営規定の改正

・発生時における重要事項説明書への記載

厚生労働省「明るい職場応援団」
カスハラ対策の実務テキスト・資料 ダウンロード先はこちら

https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/

カスハラ対策マニュアル作成ポイント

カスハラ対策マニュアル作成に際し、介護現場で想定される事例を以下にまとめます。

  • 身体的な攻撃

・ヘルパー、看護師に対し、自分の怒りに任せて暴力を振るう(殴る、蹴る、投げつける)
・スタッフを部屋から出させない

  • 精神的攻撃

・「バカ」「給料ドロボー」といった暴言や罵倒
・「殺す」「ネットにさらす」などの脅迫的発言
・他者の前での長時間による叱責

  • セクシャルハラスメント

・入用介助や清拭時に性的部分を触る、見せるなど
・性的言動やプライバシーに関する質問の繰り返し

  • 不当要求

・契約に含まれない家事を求める
・特定スタッフへのつきまとい
・執拗な担当変更の要求

職員研修の実施と周知方法

カスハラ対策として全職員への周知は重要です。従業員が「守られている」と安心することができ、知識と対応スキルを身に付けることができます。内容としては「カスハラの定義と具体例」「基本方針・マニュアルの共有」「初期対応及び緊急時におけるシミュレーション」が挙げられます。実施方法は、ロールプレイングを含めた実践的な研修や、eラーニングの活用、そして外部講師の招聘して専門知識を持つ講師からの実践的で効果的な対応方法を学ぶといった教育手法があります。 

相談窓口の設置と運用体制の構築

カスハラ対策窓口は、迅速に対応できる「内部窓口」と匿名性や専門性が高い「外部窓口」を併用するのが最適です。

以下に、それぞれのメリット・デメリットをまとめます。

内部窓口:メリット

     社内事情に詳しく迅速に対応できる

     コストを抑えられる

     具体的な職場改善に繋がりやすい

     デメリット

     ・人間関係が気になり相談しにくい環境

     ・相談担当者の専門性や中立性の確保の課題

     運用のポイント

     初期対応や軽微な相談

外部窓口:メリット

     ・匿名性や中立性が高いため相談しやすい

     ・専門的知見に基づく適切な助言が得られる

     ・精神的ケアが受けられる

     デメリット

     ・委託費用がかかる

     ・社内事情の把握に時間がかかるケースがある

     運用のポイント

     深刻な案件

     ハラスメントの隠蔽防止

カスハラ対策として、相談しやすい環境作りは欠かせません。そのため、従業員が「一人で抱え込まない」といった環境整備が重要です。そのために、経営トップがカスハラから従業員を守る方針や悪質な要求には毅然と対応する姿勢を全社員に対して発信することが必要です。相談があった場合の対応フローの整備も重要です。以下に整備方法を紹介します。

  • 相談受付(一次対応)
  • 事実関係の調査
  • 緊急措置の検討
  • 対応方針の決定
  • 対顧客の対応
  • 事後対応とそのケア

介護現場のカスハラ事例と対応のポイント

実際の介護現場で起こりやすいカスハラの具体例として「身体的暴力」「精神的暴力」「不当な要求」「セクシャルハラスメント」「家族の介入」が挙げられます。ここではその対応策の具体的事例をご紹介します。

  • 組織的な対応体制の構築

・管理者が直接介入して、利用者や家族にハラスメント行為に値することを書面または口頭で伝達する。
・組織として「不当行為は絶対に許さない=ゼロトレランス」という姿勢を明確にして、従業員を守る方針を共有する。

  • 実務的対策・予防策

・該当する従業員を特定の利用者と1対1にさせないようシフト変更する
・セクハラ対策として、基本的に同棲介助とし、威勢の場合は経験豊富な職員を配置する。

  • 記録と証拠の確保

・いつ、だれに、どこでどのような行為があったか、具体的な内容を日誌や報告書に詳細に記録する。

  • 契約・法的対応

・「対応改善がなされない場合、サービスを停止する」ことを家族に警告。改善されない場合利用契約を解除する。
・悪質な場合、警察や弁護士、ケアマネと連携して、相談窓口を活用させる。

利用者からの暴言・暴力への対応

介護現場におけるカスハラについて、認知症の有無によってその原因及び対応は違ってくるため、意図的か認知症の症状かを見極めることが重要です。その中において、職員の安全を確保するために、組織的な対応体制の構築を整え、一人で抱え込まず管理者やリーダが介入する体制と管理者への報告ルートを決めておくことが必要です。また、初期対応の徹底や研修の実施及び、相談窓口の設置や監視カメラの設置、緊急時のために警察との連携も重要です。記録の残した方として「具体的に記録する」「周囲の目撃者」「対応者」「事故報告書=ヒヤリハット」がポイントです。

警察への通報基準は以下の通りです。

  • 身体への暴力
  • 被害予告や脅迫
  • 何度もの警告にも関わらず迷惑行為が止まらない
  • 不退去罪が成立する状況

また、被害職員へのメンタルケアはとても重要です。深刻な心理的ストレスを受け、PTSDやうつ病を発症するリスクがあるため即座のフォローや相談体制、責任の明確化などといったことが求められます。

家族からの過度な要求・クレームへの対応

介護現場における契約内容を超えるサービス要求、執拗な電話・メール、理不尽な苦情への対処法について、正当なクレームとカスハラの線引きのポイントは「要求の妥当性」と「手段の相当性」での判断です。良好な関係を保ちながら毅然と対応する方法は、「相手の気持ちは理解するが、理不尽な要求は断る」という毅然とした姿勢が重要です。それには、初期対応として誠実な傾聴を行い、事実確認と冷静な説明、組織人としての対応、カスハラの場合は毅然とした拒否をとることが必要です。

セクシャルハラスメントへの対応

利用者からの性的な発言や身体接触を含め、女性職員を中心として深刻な問題になっています。被害が発生した場合、初期対応として「我慢しない」「一人で抱え込まない」「記録を残す」ということが鉄則です。そして被害を受けた女性職員の保護策を組織的対応として取る必要があります。具体的には、「担当者や部屋の変更」「同棲介助への切り替え」「複数名での対応」「相談・ケアの実施」「安全配慮義務の履行」が挙げられます。被害発生の事後対応として、迅速かつ組織的に対応し、被害者のケアを行います。


義務違反のリスクと罰則|対応しないとどうなるか

2026年度の法改正により、全ての介護事業者においてカスハラ防止策対策が義務化されます。事業主が対策を怠ると法的な義務違反のリスクや社会的信用失墜などの罰則的ペナルティが発生するため、法令遵守は何より重要です。事業主が対策を先送りにする事で以下のようなリスクがあります。

1:業務違反のリスク

  • 安全配慮義務違反(損害賠償責任)
  • 使用者責任の追及
  • 指定取り消し・業務停止リスク

2:経営のリスク

  • 離職の連鎖と人材不足
  • 他の利用者へのケア低下
  • 事業者としての社会的信用の失墜

対策を先送りにする事で、深刻な法的及び経営的リスクが伴うため、事業主の早期対応がとても重要です。

厚生労働大臣による指導・勧告・公表

介護現場におけるカスハラ対策は、2026年10月1日より全ての事業主に義務化されます。これによって、厚生労働大臣による指導・勧告・公表の対象となり、対策を怠った企業にはペナルティが科されることとなるのです。具体的には、以下の行政対応がとられます。

  • 助言・指導・勧告:厚生労働大臣が事業主に対し改善を求める
  • 公表:勧告に従わない場合は、企業名の公開
  • 命令違反のペナルティ:勧告に従わない場合、過料が科される可能性
  • 労災認定:精神障害などの労災認定基準も明確化されているため、対応不備で労災発生の場合、公表の対象となりやすい

これらを踏まえ、企業名が公表された場合は「社会的信用の失墜」「人材採用・定着化の困難化」「利用者・家族の減少」「契約・指定の取り消しリスク」など甚大な影響が予想されます。

職員の離職・採用難につながるリスク

カスハラ対策が不十分な事業所では深刻な離職と採用難の連鎖を引き起こす大きな要因となっており、職員が定着しないと言った現状があります。カスハラが横行する職場は、その評判や口コミのため採用にも悪影響を及ぼすといった採用難も深刻化しています。人材不足が深刻な介護業界において、何よりもしっかりとしたカスハラ対策の実施こそが職員の定着率や採用力に直結するのです。

まとめ

労働施策総合推進法の2026年10月の施行に向けて、事業主には5つの措置が義務付けられます。義務違反とならないためにも、今から準備を始めていくことがとても重要です。そして何より経営層が「カスハラを許さない」といった姿勢を明確に示し、職員が安心して働ける環境づくりが必要です。全職員に対してカスハラの知識を現場で使えるレベルまで浸透させることも対策の一つです。

日本教育クリエイトでは、利用者の過剰要求や暴力に対し、職員を守り組織で対応する力を養う専門講座をご用意しています。具体的事例を学びチェックシートを通じ具体的な防御・対策を習得できる内容です。特徴として「現場に則した実用性」「組織対応の強化」「義務化対応」があり、確実な効果に繋げていきます。

 

 

 

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