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クリニックを守る!カスタマーハラスメント・ペイシェントハラスメント対策

目次

スタッフの人数が少ない小規模のクリニックでは、顔見知りが患者さんとなったり、スタッフが近い距離で接することが多いため、その結果として顔見知りになることもあります。
そこに「患者さん第一」の美徳が生むカスハラに発展しやすい落とし穴があります。
関係性が悪化すると特定のスタッフがターゲットになりやすく、スタッフ間の役割分担と対応フローが明確でない時に、カスハラについて一人で抱え込んでしまうというリスクがあります。
被害にあったスタッフは心身の健康を崩し、他の患者もカスハラを目撃することで不安を覚え、クリニックの経営にも影響します。
そこでクリニックとしての方針の明確化や周知・組織的な対応体制の構築・発生時の具体的対応・外部リソースの活用などの準備を整えることで、解決策へ導くことが必要です。

カスハラ・ペイハラとは

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは顧客から従業員への理不尽な要求や暴言などのハラスメント全般を指します。
その一方、ペイシェントハラスメント(ペイハラ)は、医療現場において患者さんやその家族から医療従事者への過度な要求、暴力、セクハラ、過剰な期待のことを指すもので、医療現場における行為がカスハラとの違いです。
どちらもサービス利用者から提供者への嫌がらせ行為を指すことにおいて共通しています。
医療現場において「患者優先の意識」は基本原則ながら、「過度なサービス期待」「権利意識の肥大化」「医療従事者の対応の難しさ」という構造により、ハラスメントリスクを高めてしまうといった背景があるのです。
また、正当なクレームとハラスメントの主な違いは、要求の妥当性と要求を実現するための手段・様態にあります。正当なクレームは、不満に対して合理的な要求を冷静で建設的に伝えるものです。
それに対してハラスメントは要求内容に合理性が欠けていたり、表現が社会通念上において不適切であったりすることから、従業員を精神的・肉体的に傷つけることを目的としているという違いがあります。

 

クリニックで起こりやすい事例

小規模クリニックでは、患者さんとの距離が近いため、次のような事例が発生しやすい傾向にあります。

  • ≪長時間の待ち時間への過剰なクレーム≫:「30分またせるなんて!診察代を返せ!」など大声で受付に怒鳴り込んだり、順番を無視して診察室に怒鳴り込もうとする。医師に直接文句を言う、スタッフへの高圧的な態度や他の患者への迷惑にも迷惑をかける

  • ≪医療費への執拗な値引き要求≫:「他のクリニックはもっと安い」など、根拠なく主張して値引きを要求する。効果が出なかったことによる返金要求。

  • ≪診療時間外の無理な診察要求≫:診療時間外に電話をかけて「いますぐ診察しろ」「薬を出せ」などと大声で怒鳴ったり、直接クリニックを訪れて「診察してもらうまで帰らない」と居座り続ける。「今すぐ見てくれないと訴える」と脅す。

  • ≪SNSでの誹謗中傷≫:ネット上に「ヤブ医者」「犯罪者」などの投稿や、悪質なものになるとSNS上特定のクリニックや医師に対する「殺害予告」や「爆破予告」などの書き込み。「ネットに悪口を書く」「口コミサイトで低評価をつける」と脅す。

  • ≪スタッフへの暴言・暴力・つきまとい≫:医師やスタッフに対して「医者失格だ」「バカ」「使えない」などの人格攻撃やスタッフの髪をつかんで殴る、蹴るなどの身体的暴力、ストーカー行為。

  • ≪セクシャルハラスメント≫:女性スタッフへの容姿に対する言及や身体的接触。連絡先を執拗に要求する。

 

対策と対応方法

ペイハラ対策は、クリニックにおける組織的対策と発生時の対応策に分けられます。
組織的対応策として、院内ルールの明確化、ポスター掲示、対応マニュアルの整備、スタッフ研修の実施と相談窓口の設置など心理的安全の確保が挙げられます。
以下に具体策を述べます。

  • ≪予防策≫:クリニックの方針として、医療従事者へのハラスメント行為は許さないことを明確にして、HPや院内の待合室など目につきやすいところに「暴力・暴言・迷惑行為はお断りします」「無断での動画撮影・録音行為はお断りします」といったポスター掲示。

  • ≪対応マニュアル≫:発生時の対応フローを定めたマニュアルを作成し、クリニック全体で共有する。

  • ≪記録の取り方≫:5W1Hをもとに客観的な事実を記録として残すことで、エビデンスの確保をする電子カルテや院内報告書、録音、撮影などが有効。

  • ≪スタッフ研修≫:定期的に研修を実施して、事前の予防策と発生時の対応策理解を深める。ペイハラが疑われる言動に対して、毅然とした態度で適切な境界線を示すことの重要性を教育する。

  • ≪法的対応≫:都道府県を通じて、警察との連携を推進するよう呼びかけられている。事態が深刻な場合は、警察への通報や弁護士への相談も検討する。

これらをもとに、組織経営者として先ずはクリニックの方針を明確に示し、初期対応マニュアルの作成と確認、複数人での対応、相談窓口の周知などすぐに実践できることから始めることが重要です。加えて、スタッフ個人としてすぐに実践できる具体策としては「やめて欲しい」とはっきり伝える、発生状況を記録する、信頼できる人や窓口に相談する、冷静に対応することなどが挙げられます。

 

スタッフを守る院長の役割

ペイハラ対策において、院長・経営者は自分の果たすべき役割を理解し、明確に示していく事が重要です。
その中において、先ずはスタッフを守ることが必須です。
例えば、「何かあったらすぐに私に報告してください。あなたを守ります」といったスタッフを守る姿勢を具体的に言葉で伝えて示していく事が重要です。
そして報告しやすい環境の整備やマニュアル対策、相談窓口の設置などをすることで、心理的案安全性を確保することが必要です。
院長は、ペイハラに対して毅然とした応対姿勢を示す「基本方針」を明確にして、院内及びHPなど外部にも公開する必要があります。
実際にペイハラと認定されるような事案に対して、院長自ら対応するといったリーダーシップを発揮することが求められます。
ペイハラ事例は、スタッフミーティングで共有し、対応したスタッフへの事後ケアの体制(カウンセリングや休暇)を整えることでスタッフを守る姿勢を示していく事が大切です。

 

まとめ

「良質な医療は守られたスタッフから」はスタッフの心身の健康と安全が確保されてこそ医療の質も高まるという重要な理念です。また、毅然とした対応が他の患者さんのためにもなることの認識が必要です。実際に、『過去の診療について慰謝料の請求、再診を促すとスタッフへ暴言や暴力行為をとる』『説明が不十分であったとスタッフへのストーカー行為を行う』という事例があります。その際に「不当な要求だと思っても相手の話を傾聴する」「適当にあしらわず、かつ全てをうのみにせず毅然とした対応をとる」「記録する」ことで被害を大きくせずに解決できたという報告もあります。患者vsスタッフといった対立構造にせず、スタッフを守り患者へも配慮するという理不尽を許さない姿勢をとることが重要です。

 

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