組織を強くするモチベーションコラム
モチベーションアップ

第8回 内発的モチベーション

外部からの刺激の効用と限界

誰しも嫌々ながらの仕事には力が入りません。できれば早く手を引きたい、隙があれば逃げ出したいと思うものです。ではその仕事に報酬を用意したらどうでしょうか。仕上げたらボーナスを出す、良い結果を出したら昇給や昇進もあるという場合には、いやな仕事であっても向かっていくモチベーションは湧いてきます。こうしたモチベーションの発動は「外発的モチベーション」とよばれます。

外発的という意味は、外から与えられる刺激や報酬ということです。金銭はその代表的なものですが、周囲の人から褒められたり、特定の権利や権限を与えられたりすることも、モチベーションを高める刺激になります。私たちの職場や日常の生活を見渡せば、外発的モチベーションは人を動かす大きな力になっていることは明らかです。

けれども、外発的モチベーションだけに頼ることには問題があります。外部からの刺激は、常に新しく与え続けないと、次第に慣れてきてしまい効果が薄れてきてしまいます。コンパスの針で手の甲を突くと初めは痛みを感じますが、同じ強さでは次第に慣れてきて、痛みという感覚が薄れてきます。これを「刺激汎化」といいます。頑張って給料が上がればそのときにはやる気も高まるでしょうが、ずっとその額で留め置かれて、次に良い結果を出しても昇給はなしというときには、やる気も低下してしまいます。この事態を打開して社員のやる気を保つためには、また給料を上げなければならず、さらにその先も給料を上げ続けなければなりません。

褒められる、賞賛を受けることもモチベーションを高める刺激になりますが、親や先生に褒められたい一心でズルをする子も出てきます。賞賛や承認を受けられないことが罰の意識を生んで自信を失ってしまうこともあるでしょう。このように、外発的な刺激はモチベーション促進に強い効果を持つ一方で、それだけに頼ることは危険な面もあることに注意が必要です。

内発的モチベーション

俗に「はまる」という言い方があります。ゲームにはまる、ヨガにはまる、釣りにはまるなど、はまる対象はいろいろですが、いずれもそれをすることが好きだから、楽しいからという感覚が基本にあり、外からの刺激や報酬には左右されません。つまり、自分の内部から湧き出る充足感や喜びの感覚が根底にあって発動するモチベーションであり、これは「内発的モチベーション」とよばれます。

内発的モチベーションの代表的な研究者であるデシによれば、自分自身がその行動を選び自分自身の意志で動いているという感覚、そして「やればできる」という感覚が、内発的モチベーションの強い要因となります。前者は「自己決定」の感覚、後者は「有能感」の感覚です。人の内部でこうした感覚が刺激されると、外からの刺激に頼らずとも自発的な行動が生まれてきます。

他人から強制されるのではなく、自らの意志で行動しているという感覚は、人が本来的に求めるものといえます。マニュアルを読まされるのは苦手だけれども好きな小説は徹夜してでも読んでしまう、好きなスポーツやゲームは時間を忘れるくらい熱中してしまうなど、外部刺激に頼らないモチベーションは私たちの日常でも多く体験できることです。そうした中での進歩やスキルの向上は「やればできる!」という有能感を刺激し、やらされ感によるストレスや苦痛を感じることなく、長い時間、長い期間にわたって充実感を伴う行動となっていきます。

外発から内発へ

では、外発的モチベーションはすべて有害で、人を動かすには内発的モチベーションでなければならないということなのでしょうか。こうした議論はたとえば教育現場などでもしばしば耳にすることがあります。児童生徒の学習意欲を高めるには外発的な刺激に頼ることは間違いであり、内発的モチベーションの強化こそが正しいやり方である、という主張です。

内発的モチベーションを高めるという点では、この議論は正しい面があるとともに、外発的モチベーションに頼るのは間違いという点については慎重に考える必要があります。外発的と内発的とは排他的な関係にあるのではなく、相互に関連しながら私たちのモチベーションに影響を与えるものと捉えることが、モチベーションへの理解につながるからです。

私たちの日常を振り返っても、そもそも外的な刺激が全くない行動を探すことは不可能といえます。グループ・ダイナミクスという社会心理学の領域を拓いたK.レビンは、行動は人と環境との相互作用の結果として生まれるとする、心理学の世界では有名な公式を表しています。つまり、私たちの行動には必ず環境からの外的な刺激が関わっているのであり、それを無視して内的な刺激だけで行動をコントロールしようとするには無理があります。

B = f(P・E)
B:行動(Behavior)
P : 人(Person)
E:環境(Environment)
fは相互作用関係にあることを表す

初めは外からの働きかけによるやらされ感があっても、やがてそこに自らの意志が関わり、行動しているうちに楽しさや喜びが生まれてくることもあります。たとえば仕事の中でも、初めは上司から指示され、やらされ感満載でとりあえず始めたことが、自分の将来の幅を広げる可能性に気づいて進んで取り組むようになり、コツをつかむと面白くなってやりがいを感じるようになり、やがてその仕事のプロフェッショナルに変貌していくということも少なくありません。 初めは外発的なモチベーションであっても、それがうまく内発的なモチベーションにつながっていくよう方向づけがなされれば、私たちの行動はより持続性のあるものになっていくということができるのです。

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