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医療におけるリスクマネジメントとは?定義から事例までわかりやすく解説

目次

医療におけるリスクマネジメントは医療機関のみならず、患者や医療従事者、社会全体にとって重要です。ここではその定義や目的、種類などマンジメントにおける具体的な取り組み方法について述べていきます。事例に合わせた対策や担うべき役割について、医療従事者は勿論のこと、経営層、リスク管理部門など医療機関に携わる人たちに役立つポイントをわかりやすく解説します。


医療リスクマネジメントとは?その定義と目的

医療現場におけるマネジメントについて、定義や目的について紹介します。また、他業種との違いも明確な理解が必要です。

医療リスクマネジメントの定義

医療リスクマネジメントの定義は、医療事故や医療ミス、トラブルを未然に防ぎ、患者や医療従事者にとって安全な環境を整備するための取り組みのことです。リスクを特定し、評価、分析し、それに対する対策をたて、実施、評価することで医療の質と安全性を高める、医療機関の損失を最小限に抑えるための活動です。

医療リスクマネジメントの目的

リスクマネジメントの目的は、事故の予防、患者・医療従事者の安全を確保することです。また、医療の質を向上させて、患者が安心して医療を受けられる環境を整備し、医療機関の信頼性を維持することも目的です。例えば、金融機関におけるリスクマネジメントは、金融商品のリスク、信用リスク、オペレーショナルリスクなど、多岐にわたるリスクを管理し、金融システムの安定を目的とします。このような他業種と比べると、医療特有の複雑さや倫理的な側面、人命に関わるといった重大な違いがあります。患者の生命は健康に直接影響するため、その管理はより精密で慎重な対応を求められるのです。また医療過誤は法的責任を伴います。そのため専門家による対応や発生後の対応も重要です。


医療現場で想定される主なリスクの種類

医療現場で想定されるリスクは多岐にわたりますが、大きく分けると医療安全、感染対策、BCP対策、ハラスメント対策、人的要因、施設・環境面のリスク、情報管理、財務・ビジネスリスクなどが挙げられます。これらのリスクは、患者の安全、医療従事者の安全、医療機関の経営に影響を与える可能性があります。
以下に4つの例を示します。

ヒューマンエラーによる投薬ミス 取り違え
原因疲労やストレス 知識不足 認識不足
<影響>患者の様態悪化 服作用 死亡 後遺症 医療訴訟
<起きやすいシーン>夜間や休日の当直時 緊急時 複数の薬剤を扱う場合 類似した名前を扱う場合 患者の状態が変化した場合

 設備・機器の不具合
<原因>経年劣化 メンテナンス不足 操作ミス 設計上の欠陥 環境要因
<影響>患検査の遅延 手術の遅延 体調悪化 感染症リスクの増加 生命に関わる事態 データ消失  後遺症 医療事故報告 法的責任 社会的信頼の失墜
<起きやすいシーン>手術室 検査室 集中治療室(ICU)病棟など医療行為が集中する場所 生命維持に関わる機器が使用される場所

患者転落
<原因>患者自身の身体機能の低下 環境要因 医療スタッフのケア不足
<影響>身体的影響(骨折・頭部外傷)精神的影響(恐怖心・認知症の悪化)機能的影響(歩行障害・日常生活能力の低下)経済的影響(入院期間の延長・医療費の増大)社会的影響(家族への負担・生活の変化)
<起きやすいシーン>夜間の排泄時 検査や処置の前後 集中治療室(ICU)や手術室 転倒リスクの高い患者 環境要因 心理的要因

誤嚥 
<原因>加齢による嚥下機能の低下 脳卒中やパーキンソン病などの神経・筋疾患 口腔内の清潔の保持困難 食事中の姿勢 食堂や胃からの逆流 薬の影響や機関チューブの留置
<影響>誤嚥性肺炎 窒息 栄養不良 精神的な影響 裁判リスク
<起きやすいシーン>食事介助時 口腔ケア時 体調が不安定な患者の移乗時

感染症 
<原因>病原体・感染経路・宿主 の3つの要素が組み合わさることで発生
<影響>病状の悪化 治療の遅延 死亡のリスク増加 感染リスク 感染者対応への負担増可 病院全体の経営
<起きやすいシーン>免疫力が低下している患者 重症患者 侵襲的な医療処置 医療従事者 医療器具 環境 抗菌薬の使用

情報管理の不備(電子カルテ 個人情報流出)
<原因>紛失・置き忘れ(パソコン USBメモリ)誤操作・人的ミス 不正アクセス セキュリティ対策の不備 情報管理体制の不備 医療情報システムの課題
<影響>患者の個人情報・医療情報の漏洩 診療の遅延・停止 業務停止・経営への影響 法的責任 医療機関の信頼失墜 
<起きやすいシーン>個人情報の誤送信 システム障害 不正アクセス 情報共有の不徹底 外部業者との連携 医療機器の不具合 紛失や盗難 従業員のモラル低下

医療リスクマネジメントの基本プロセスとPDCAサイクル

医療現場では、様々なリスクが潜んでいます。PDCAサイクルを回し、これらのリスクを継続的に評価して対策を講じることで、未然に医療事故を防ぎ、医療の質の向上に繋げることができます。

 リスクマネジメントの4ステップ

医療のリスクマネジメントの基本プロセスは、以下の4つのステップで構成されます。

  • リスクの特定―起こり得るリスクを洗い出す段階
  • リスクの分析―特定されたリスクについて、発生頻度や影響度を分析
  • リスク対応―リスクの評価決定に基づき、リスク管理のための具体策を立案・実施
  • モニタリング・改善―実施した対策の効果を評価し、必要に応じて改善

    PDCAサイクルは、これらのプロセスを、Plan(計画)Do(実行)Check(評価) Action(改善)の4つのステップを繰り返すことで、医療現場におけるリスクを継続的に管理し、医療安全の向上を図ります。「一度やったら終わり」ではなく「継続的改善」ということが重要なことです。

実際に行われているリスクマネジメントの事例

ここで医療従事者の声をご紹介します。

・実際に使うと想定外のことが起きる
・ヒヤリハット事例を共有することで気をつけようという意識が高まる
・誤作動で患者さんへの影響を考えるとプレッシャーになる
・チームの協力で、リスクを最小限にすることが大切

これらのことを踏まえ、医療現場では、発生する可能性のある様々なリスクを予測・評価し、その影響を最小限に抑えるための取り組みを行っています。以下にその事例を紹介します。

転倒・転落事故の予防策

医療現場における転倒・転落のリスクマネジメントと予防策は、患者の安全を守る上で非常に重要です。転倒・転落は、冠者の身体機能の低下、環境要因、薬剤の影響など、様々な要因が複雑に絡み合って発生します。多角的な視点からのリスク評価、それを踏まえた予防策や対応策の準備が不可欠です。

<問題>骨折や頭部外装リスクなど、重篤なケガに繋がる可能性
<対策>ベッド柵の設置、床の段差解消、歩行補助具の利用、患者への声掛け、転倒リスクの高い患者への見守り体制の強化
<効果>転倒・転落事故の予防

投薬ミス防止

投薬ミスは、医療現場で起こり得る重大なインシデントの一つで、患者の健康に重大な影響を及ぼす可能性がります。医療機関はリスクを最小限に抑えるための対策を講じて、患者の安全を確保する必要があります。

<問題>患者への誤った薬剤の投与により、重篤な健康被害を引き起こす可能性
<対策>処方箋の確認、バーコードによる照合、声掛け確認によるダブルチェック体制の確立、患者への十分な説明
<効果>投薬ミス防止

感染症対策

医療現場における感染症対策とリスクマネジメントは患者と医療従事者を守るうえで不可欠です。対策を適切に実施し、現場での感染症リスクを低減することで、より安全な医療を提供することが可能になります。

<問題>院内感染は、患者の健康を脅かすだけではなく、医療機関の評判を損なう可能性
<対策>手指衛生の徹底、適切な感染経路対策、環境整備、ワクチン接種
<効果>感染症リスクの低減

機器誤作動対策

医療機器の誤作動は患者に重大な危機を及ぼす可能性があり、適切な対策が不可欠です。
対策を講じることで医療事故を未然に防ぎ、患者と医療従事者の安全を確保することが出来ます。

<問題>患者の安全を脅かす、重篤な危機を及ぼす可能性
<対策>保守点検の徹底 使用マニュアルの整備と遵守 スタッフ教育 情報収集と共有 シミュレーショントレーニング 医療機器のダブルチェック
<効果>不具合・事故の早期発見 誤作動リスクの軽減 医療事故の防止意識 実践的スキルの習得

医療従事者と組織が担うべき役割

医療現場におけるリスクマネジメントは、医療従事者と組織の両方が担うべき重要な役割です。個人としては、医療事故を未然に防ぐための知識や意識の向上が求められると共に、
チーム医療の一員として連携を密にすることが重要です。組織としては、「安全管理委員会」や「医療安全推進室」の設置などを通して、医療安全に関する方針決定や対策の推進、研修の実施など組織全体の安全文化の醸成が求められます。

 個人の役割

・患者の安全を最優先に考える
・専門的な知識と技術の向上(学ぶ姿勢)
・事故報告(報告する意識)
・ヒヤリハットの記録

組織の役割

・医療安全文化の醸成
・インシデント報告制度の整備
・医療従事者の教育・訓練(研修制度の設計)
・リスクマネジメント体制の構築

医療現場における「レジリエンス」とリスク対応力

ここでは、医療現場におけるレジリエンスとリスク対応力の関係について述べます。

レジリエンス(精神的回復力)とリスク対応の関係

医療現場におけるレジリエンスとリスク対応は、相互に補完し合い、より安全で質の高い医療提供を可能にするために重要な関係にあります。両者の連携を強化する事で、医療現場は変化や困難な状況に柔軟に対応し、患者の安全を確保し、より強靭な医療システムを構築することができます。

ストレス耐性が高いチームほどミスに強い

医療現場におけるレジリエンスとリスク対応は、チームのストレス耐性、変化への適応力、問題解決能力、コミュニケーション能力、学習能力など多岐にわたる要素が相互に影響し合っています。レジリエンスを高めることで、医療過誤などのリスクを低減し、より安全で質の高い医療を提供することが可能になります。

組織としての柔軟性

医療におけるリスクマネジメント、レジリエンス、対応力、組織の柔軟な勤務体制、チーム再編、心理的安全性、職場風土は、それぞれが独立した要素ではありません。互いに影響し合い、連携をとることによって、より強靭な医療体制を構築するために不可欠な要素です。バランスよくこれらの要素を整備し、継続的に改善していくことが、質の高い医療を提供するために重要です。

まとめ:患者・医療従事者を守るために今できること

 医療におけるリスクマネジメントは、医療の質を確保し、組織を損失から守るために重要です。事故の予防、患者・医療従事者の安全確保・信頼の維持のために日頃から以下の対策を講じることが必要です。

・想定されるリスクを「原因」「影響」「起きやすいシーン」で理解する
・PDCAサイクルを活用し継続的改善の重要性を理解する
・行われているリスクマネジメントの事例を把握する
・個人と組織の役割の確認し、チーム医療の重要性を理解する
・レジリエンスとリスク対応の連携を強化する

これらのことを「明日から現場で実践できる」リスクマネジメントアクションとして、
・リストの作成
・報告文化の促進
・定期的な研修の実施
が重要です。そして全てを網羅して学べる場として、研修実施は何より不可欠で重要です。



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