組織を強くするモチベーションコラム
モチベーションアップ

第2回 モチベーションと欲求

科学的にものを見る

心とはどのようなかたちをしているのか、誰も見たことはありません。モチベーションも同じで、それがどのようなものなのかを実際に手に取ったり目で見たりすることはできません。つまり、実態ではなく私たちの思考の中で構成された概念なのです(科学ではこれを仮説構成体といいます)。

では心やモチベーションを探るにはどうすればよいのでしょうか。心理学では、目に見える行動から間接的に心やモチベーションを推測するという方法がとられます。したがって、正しく推測するためには、誰もが納得するような手続きを踏む必要があります。『私は幽霊を見た。私が見たのだから幽霊は存在するのだ』と言っても、周りの人を納得させることはできません。

誰もが納得できる手続きとは、どのような手続きでしょうか。第1に、誰もが用いることのできる手続きでなければなりません。第2に、同じ条件・やり方であれば常に同じ結果が得られることが必要です。たとえば、理科の実験では、水素と酸素を一定の割合で混ぜれば水ができます。これは実験器具さえ揃っていれば世界中で誰もが体験でき、また手続きを間違えなければいつでも同じ結果を再現できます。

心を探る、あるいはモチベーションを探る場合も同様です。だれもが納得のいくやりかたで探っていくことが、科学としての心理学を成立させているのです。

モチベーションを探る壁

そうは言うものの、実際にモチベーションを探るのはそうそう簡単ではありません。モチベーションの研究者たちは、モチベーションを探ることの難しさをつぎのようにまとめています。

  • どのような単純な行動でも複数のモチベーションが考えられる。
  • モチベーションはかたちを変えて現れることがある。
  • 類似のあるいは同じ行動を通じて複数のモチベーションが表されることがある。
  • 同じようなモチベーションであっても違った行動で表されることがある。
  • 文化の違いや個人差が、モチベーションの表現様式に影響することがある。

たとえば、走るという単純な行為でも、泥棒は警官から逃げるために走り、警官は泥棒をつかまえるために走るという、回避モチベーション(泥棒)と接近モチベーション(警官)の2つの存在が考えられます。あるいは、営業目標を達成しようとするモチベーションは一緒でも、青木さんと山田さんでは達成のための方略や顧客へのアプローチまで一緒とは限りません。こうしたところに、モチベーションを探る壁があるのです。

けれども私たちは、モチベーションを科学の目からとらえ、科学として理解していくことが必要です。その基本となる概念の一つに欲求概念があります。

生理的欲求と社会的欲求

欲求もまた目に見えるものではなく、人の内部にあって、行動を生みだし方向づける力と定義される仮説構成体です。モチベーションは、欲求とその欲求が向かう目標があるところに生まれます。

欲求には、飢えや渇き、性など、生命を維持するために欠かせない生理的な欲求と、人と仲良くしたい、周囲から認められたいなど、社会生活を営む上で生まれる社会的欲求(心理的欲求ともよばれます)があります。どちらもモチベーションの発動にとっては不可欠の要因です。

欲求の対立

私たちは多くの欲求に囲まれて生きていますが、ときにそうした欲求が同時に存在し対立することもあります。これが葛藤(コンフリクト)です。心理学者のレヴィンは葛藤を3つの基本型に分けています。

葛藤は欲求充足の妨げとなり、フラストレーション(欲求不満)を引き起こす原因になります。フラストレーションが高まると、不適切な行動が生まれます。理不尽に部下を怒鳴る、弱い立場の者をいじめたりいたぶる、少しのことでキレるといった、周囲への攻撃行動や、時によっては自分自身が攻撃の対象となる(必要以上に自分を責めるなど)こともあります。また、普段は冷静な人が突然泣き出したり、筋道を立てて判断できなくなったり(退行行動)、爪を噛んだり貧乏揺すりが止まらない(異常固着)などの行動が出てくることもあります。職場でもこうした行動をとる人を見つけることは難しいことではないでしょう。

今回は欲求という概念について取り上げましたが、次回はこの欲求がどのような構造をもっているかについて見てみることにしましょう。

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