カスハラ防止とは?定義から対策案までをまとめました
目次
カスハラと(カスタマーハラスメント)とは、顧客や取引先からのクレームを言動の中で、従業員の就業環境を害するような行為を指します。
消費者の地位向上や権利意識の高まりや、SNSの普及によって顧客の発言力が増したこと、そしてハラスメントを強く問題視する近年の傾向から増加傾向にあります。
ここでは、最新ニュースや事例を挙げながら、なぜカスハラ防止が今求められているかについて述べていきます。
カスハラ防止とは何か?その定義と背景
カスハラは「カスタマーハラスメント」の略語のことで、英語のcustomerとharassmentを組み合わせた和製英語です。
厚生労働省では、「顧客からのクレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。
SNSの普及、企業やサービス、商品についての些細な不満をも容易に発信できるようになり、そのことが過剰なクレームや理不尽で不当な要求に繋がるケースが増えています。
従業員の些細なミスに対して「早くしろ!クズ!」などの暴言を吐いたり、威嚇や金銭の要求、商品に穴が開いていたといったクレームを持ち込み、返品や返金以外に交通費を要求し、更には土下座をさせてSNSに悪評と共に投稿するといった事例もあります。
カスハラは企業にとっては、プランドのイメージダウンや訴訟のリスク、サービス提供の遅延など、従業員にはパフォーマンスの低下、心身への影響、その結果として休職や退職というように、様々な悪影響を及ぼします。
カスハラの定義と具体例
カスハラは正当なクレームとは違います。
正当なクレームは、商品やサービスなどの改善を目的として不満や意見を伝える事ですが、カスハラは行き過ぎた過度のクレームです。
例えば、実際にあった例として、ラジオ番組への電話がつながらなかったという理由から、KDDIは1週間で400回以上のクレーム電話を受けるという被害があったと言います。
そのクレーム内容は「ブサイク」「くさい」といった内容で2年間で24000回以上電話していたようです。
カスハラが社会問題化した背景
近年、様々な分野で起きているためにカスハラと言う言葉をよく聞くようになり、世間でも注目されることが多くなりました。
その背景には、ハラスメントという概念も定着する中、消費者の権利意識の高まりと共にSNSが一般的なものとなったため、誰もが手軽に情報を発信できるようになり、発言力が増大したことが大きな要因です。
最新ニュースから見るカスハラの現状と防止の重要性
カスハラは接客の際に顧客から悪質なクレームや迷惑行為をすることで、増加傾向にあるのが現状です。
カスハラに関する最近のトレンドとしては、被害の増加傾向にあり、種類においては直接の暴力を伴わない迷惑行為が増加しています。
また、多い職種としては「医療・福祉」がトップとなっています。
カスハラを放置すると、職員への精神的負担が増加し、体調不良や仕事への意欲低下、職場への恐怖や苦痛から離職や退職に繋がるケースも出てきます。
また、企業へのイメージダウンも考えられ、顧客離れを引き起こす可能性も出てきます。
そのためこれらを防ぐために、今、カスハラ防止が重要な課題となっているのです。
(参照:https://www.asahi.com/articles/ASSCL3HFNSCLIIPE001M.html)
・タイムリーなニュースとその影響
最新のニュースの中に、北海道議委員が、カスハラを雇用現場から根絶しようと超党派でつくる「北海道カスタマーハラスメント防止条例検討会議」の議員が、道議会議長に条例案を出したというニュースがあります。
カスハラは、働く人だけではなく、人手不足の中にある雇用の現場においても影響があると言います。
従業員の心身への影響で離職に繋がる問題に加え、事業活動や消費活動にも多大な影響を及ぼしていると言います。
同趣旨の条例は、全国初で東京都が10月に制定、来年4月に施行され、埼玉、三重県でも条例化を目指す動きがあり、北海道で成立すれば全国初の議員提案による防止条例となります。
(参照:https://www.asahi.com/articles/ASSCL3HFNSCLIIPE001M.html)
カスハラ防止条例が企業に求めること
カスハラ防止条例により、企業は今後カスハラ防止施策に協力し、従業員がカスハラを受けた際には安全の確保と行為者に中止の申し入れに努めなればなりません。
さらに、従業員に対しても顧客としてカスハラを行わないような措置を講じることが必要です。
また、カスハラを受けた従業員への配慮や防止手引きの作成をするように努めることが必要です。
事業者の責務は、以下の通りです。
(事業者の責務)
第九条 事業者は、基本理念にのっとり、カスタマー・ハラスメントの防止に主体的かつ積極的に取り組むとともに、都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策に協力するよう努めなければならない。
2 事業者は、その事業に関して就業者がカスタマー・ハラスメントを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申し入れその他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めなければならない。
3 事業者は、その事業に関して就業者が顧客等としてカスタマー・ハラスメントを行わないように、必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(事業者による措置など)
一四条 事業者は、顧客等からのカスタマー・ハラスメントを防止するための措置として、指針の基づき、必要な体制の整備、カスタマー・ハラスメントを受けた就業者への配慮、カスタマー・ハラスメント防止のための手引きの作成その他の措置を講ずるよう努めなければならない。
(参照:https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/09/11/documents/18_01.pdf)
カスハラ防止に向けた企業の具体的な対策案
企業は従業員が心身の安全を確保して働けるように、カスハラ防止に向けた対策をとる事が重要です。
具体的な策として先ずは以下のようなものを整えることが必須です。
① カスハラ対策マニュアルの作成
② 相談窓口の設置
③ 従業員に対する研修
④ クレームを社内で共有する仕組み
⑤ 正当なクレームとハラスメントの区別が出来る仕組み
従業員教育と意識改革の方法
従業員の教育として、カスハラ防止研修があります。
具体的内容として、カスハラの定義や種類、適切な対応手順、予防や早期発見の重要性を学びます。
事例研究をもとにロールプレイングや演習を取り入れ、また意見交換としてディスカッションを行うことで、実践的な対応策を学びます。研修を行うことで次のような効果を期待することが出来ます。
① 従業員の安全意識の向上
② 組織としての対応力の向上
③ 従業員満足度の向上
④ 職場環境の改善
⑤ 企業価値の向上
当社でもカスハラ研修を実施しておりますので、ぜひ案内をご覧ください。
【介護向け】カスハラ研修>>
【医療向け】カスハラ研修>>
カスハラ防止マニュアルの作成と活用法
カスハラが発生した際に、適切に対処するためにはマニュアルの作成が効果的です。
実際にこれまでに経験した事例などをもとに、どのように対応するか、どのような言葉を使うか、どのような手順で進めていくのか、といったことを盛り込みます。
作成に際しては、弁護士など法律に熟知している人からのアドバイスや監修も重要です。
また、マニュアルは作成しただけでは効果は期待できません。
従業員同士が内容を理解しそれに基づいて動けるために研修を活用していくことが重要です。
相談窓口の設置と運用
カスハラの防止策の一つとして、従業員が安心して相談できる窓口を設置することが重要です。その際には次の方法が有効です。
① アクセスがスムーズであること
② 外部の機関との連携をとること
③ 専門性を確保すること
④ 相談者に対する保護に配慮されていること
⑤ 迅速な対応が出来ること
カスハラに対する成功事例を見ると、迅速に上司や管理者に報告するといった対応や必要に応じて警察に通報するなど、法的措置の重要性が示されています。
カスハラ防止策について、従業員が日ごろからその対処法をしっかり確認・理解しておくことで解決につなげていくことが必要です。
上層部のリーダーシップと役割
カスハラから従業員を守ることは使用者の安全配慮義務(労働契約法第5条)の一環です。
経営層や管理職はカスハラ防止のために次のような関りを持ち、リーダーシップを発揮することが必要です。
① 部下から積極的に相談を受けて、公正中立な立場で対応する
② カスハラに関する知識を習得して、部下に伝える
③ カスハラの兆候を早期にキャッチして、迅速に対応する
④ カスハラの事例を周知する
⑤ 産業医や産業カウンセラーとの連携を図る
⑥ 働きやすい環境を作る
外部専門家の活用
カスハラの問題について、自分たちの組織で対応しても上手く解決できず顧客からの理不尽な要求が長引き、従業員の心身への負担が大きくなることもあります。
そのまま、従業員が対応し続けることで疲弊したり、精神疾患を起こして離職や退職に繋がるリスクもあります。
そのため、従業員や職場の環境を守るために、外部の弁護士やカスハラコンサルタントを活用することが重要です。
弁護士は労働法、紛争、訴訟解決に熟知しています。
マニュアル作成のアドバイスや法的サポート、トレーニング依頼などにおいても外部専門家の力を頼ることも効果的です。
メンタルヘルスサポートの強化
カスハラにより仕事に対する不安や意欲が低下したり、ストレスを抱え精神的な負担を感じる従業員へのメンタルヘルスサポートを導入していく事が必要です。
例えば研修でストレスマネジメントなどを学ぶ機会を定期的に設けることで、ストレスに対してメンタルの強化を図ります。
また企業内に心理カウンセリングサービスの設置し、早期にカウンセリングを受けられる環境を整え、ストレス反応が精神疾患に発展することを防ぐことも重要です。
社内にカウンセラーの常駐が難しい場合、外部機関と契約することで、従業員が安心して相談できる環境整備をすることが出来ます。
カスハラ事案の記録と分析
カスハラはその場しのぎ的に対応していても、根本的な解決にはなりません。
そのため、カスハラ事案を記録し、分析することで組織内のリスクを特定し、適切な予防対策の強化に繋げていくことも重要です。
その一つの方法として、AIによる高度な自然言語処理を利用し、カスハラ事案を分析して、従業員を守るために体制強化をする方法もあります。
顧客対応ガイドラインの見直し
カスハラ事案が増えてきている中、2024年10月にはカスハラ防止を目的とした「東京都カスタマーハラスメント防止条例」の可決・成立しました。
こういった世間の動きに合わせ、企業内における顧客対応に関するガイドラインを見直すことも必要です。
従業員がカスハラに適切に対処できるような指導をしていくことが重要で、適切な対処方法として具体的に次のようなことが挙げられます。
① 相手の名前と住所を確認する
② 不明な点は「わからない」と伝える
③ 理不尽で不当な要求は受け流す
④ 相手にあきらめてもらう
⑤ 相手の話をしっかり聴く
⑥ 長時間に座り続ける場合には「警察を呼ぶ」ことを伝える
成功事例に学ぶカスハラ防止対策
コールセンター業務における成功例をご紹介します。
ヤマト運輸株式会社では、オペレーターが多くの被害やトラブルを経験していることを基に、オペレーター向けにアンケートを行ったと言います。
それにより被害の発生が確認でき、社員が理不尽な発言・要求に我慢していたことが浮き彫りになり、会社として社員を守るために取り組まねばならないと一層の意識の高まりに繋がります。
そこで、「カスハラ発言」と「カスハラの可能性のある言葉」に分け、顧客からの発言により応対の手順を示すフローを作成。
また、伝え方に悩んだ時の「文言集」を含めた、対応マニュアルを作成しています。
また、カスハラ対応をした場合にレポートを作成し社内共有が出来る仕組みをとっているのです。
カスハラと言う概念がしっかり社内に浸透し取り組みの成果を実感していると言います。
この例に見るように、「社員の安全を守る」を守るために、事例をもとに対応マニュアルを作成し、社内においてしっかり共有していくプログラムが有効です。
(参照:https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/pdf/customers-measures/customers-measures_08.pdf)
成功したカスハラ防止施策の具体例
このヤマト運輸が取り入れた具体的なカスハラ防止策としては、マニュアルの作成とその内容の周知です。
マニュアル作成においても、社内アンケートで実際にこれまでにあった暴言・威嚇・脅迫や、長時間拘束や執拗な個人情報の要求被害の事例を拾い上げ、それをもとに対応策を作ったことが成果に繋がっています。
また作成の際には、弁護士との相談や過去の企業内におけるクレーム情報や書籍、労働施策総合推進法に基づく指針を参考にしている点も成功のポイントとして注目したいところです。
企業が学ぶべきポイント
他企業から学ぶポイントとして、イトーヨーカドーではカスハラ対策マニュアルに加えて「『悪質クレーム』対応実務ハンドブック」を配布して、クレーム発生時には手元において参照するように伝えるということです。
また、任天堂では「修理サービス規定/保証規定」に「カスタマーハラスメント」の項目を初めて盛り込み、従業員へのカスハラがあったと会社が判断した場合には、製品の交換や修理を断る場合があること、悪質な場合には警察や弁護士などに連絡し適切に対処するということを示しています。
カスハラ防止施策の導入に際しては、厚生労働省による指針及び労働組合のガイドラインに基づいて、弁護士など法的な知識に熟知している立場のアドバイスを受けながら作成することもポイントです。
また、マニュアルだけに頼らず、現場に即した従業員への研修を定期的に行っていくことが必要です。
今後のカスハラ防止に関する法的動向と企業の対応
カスハラに関して、改正法や新たな条例既定の動きがあります。またそれを踏まえて、企業はしかるべき法的な対策をとり備える必要があります。
カスハラ防止に関する法改正の動き
■旅館業法の改正
2023年12月より、旅館・ホテルでカスハラが繰り返された際、迷惑客の宿泊を拒否できるようになりました。
■東京都カスハラ防止条例の制定
2024年10月4日に東京都議会で可決・成立した「東京都カスタマーハラスメント防止条例」は2025年4月1日から施行されます。
■労働施策総合推進法の改正案
2024年5月に、厚生労働省は従業員をカスハラから保護する対策を義務付ける同法の改正案を検討するとの報道がなされています。2025年の通常国会にも同法改正案が提出される見込みとなっています。
また、2024年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太方針2024)では、「カスタマーハラスメントを含む職場におけるハラスメントについて、法的措置も視野に入れ、対策を強化する。」の一文が加えられました。
法的対応を踏まえた企業の備え方
カスハラは、顧客だけではなく企業にも重大な法的リスクがあります。
それはカスハラ対策をしっかり適切に行わないことにより、労働基準法に定められている「従業員に対する安全配慮義務違反」の法的リスクです。
そこで、企業が行うべき準備や対策として以下の事が重要です。
① カスハラ対応マニュアルの作成
② 従業員への研修
③ 従業員にカスハラ対策の姿勢を明確に示す
④ マニュアルを社内で周知する
⑤ 弁護士などとの連携
⑥ 一次対応者や相談窓口との情報共有の実施
⑦ 正確な情報の把握と共有
⑧ 相談窓口の設置など応対体制の整備
カスハラ防止のまとめと企業の次のステップ
近年増え続けるカスハラに対して、企業は従業員が安心して仕事に就けるような環境を整える必要があります。
カスハラに関連する法改正や新たな規制の動きも含め、企業が法的リスクを回避するためにも必要なことです。
そのためにすべきことに、マニュアルの作成や研修の実施などが挙げられますが、これが一過性のものであってはなりません。
社内全体で、日々の業務の中で発生するカスハラについて、その対処法を共有できる仕組みづくりの取り組みも重要です。
また、相談窓口を設置し、法律におけるアドバイスを受けられるシステムも必要です。
これらのことに持続的に取り組んでいくことで成果を期待することが出来るのです。
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